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羽生結弦が高校時代から履き続ける“革命的なスケート靴”のヒミツとは? 発売当初は周囲からバカにされる“異端の靴”だった
posted2022/02/09 17:00
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
KYODO
刻一刻と変わる現代社会では“今日の常識”も気づけば過去のもの。スポーツ界は、そんなサンプルに事欠かない。フィギュアスケートでは今世紀、靴の概念が劇的に変わった。
フィギュア靴はかつて、「硬くて重い」ものだった。ブレードと呼ばれる金属をつけ、氷上で優雅に舞うには、足と足首をしっかり守る強靭な靴が求められる。そのため牛革をベニヤ板のように重ね、ときには鉄も挟んで剛性を出していた。見た目は完全に革靴。感触はカチカチで、ズシリと重い。
こうした常識を覆したのが、イタリアの新興メーカー「エデア」である。
ブレード研磨師として数々のトップスケーターを支える、櫻井公貴さんが解説する。
「エデアが2007年に売り出した“アイスフライ”は、従来の靴とは大きく異なる、スニーカーのような靴でした。素材には牛革ではなく、軽さの出る人工皮革を採用。当時、老舗メーカーは“なによ、これ”と相手にしていなかったのですが、軽さと履き心地を極限まで追求した“アイスフライ”は世界中のトップスケーターを魅了したのです」
羽生結弦は高校時代から履き続けている
とにかく軽いアイスフライ。従来の硬さに慣れたスケーターから柔らかすぎるという声も上がったため、同社は'16年、硬さに寄せた“ピアノ”を開発する。硬さを出したことで多少重くはなったが、ベストセラーとなった。
「硬くて重いかつての靴は、履くと足が痛くなりましたが、スケーターにとってはそれが当たり前だったわけです。しかし履き心地を追求するエデアは、低反発クッションを採用することで、痛みを劇的に軽減しました。また従来の靴は革が馴染むのに1、2週間の慣らしが求められましたが、ピアノは履いた瞬間からフィットする。そのこともスケーターには大きな魅力となりました」
“エデア(笑)”から“最高峰のエデア”へ。旧来の様式に縛られず、スケーターファーストを貫いた同社の躍進には、櫻井さんも携わる“あの金メダリスト”もひと役買っている。
「羽生結弦選手です。彼が高校時代からアイスフライ、ピアノを履いて結果を出し続けたことで、若い世代がエデアの靴を履くようになったところは多分にあるかと。いまや全日本の上位は、ほとんどエデアですよ」
最後に気になるお値段を。世界のトップスケーターがこぞって履くピアノは、税込み10万1200円。これに9万2400円のブレードをつけて、羽生は優雅に氷上を舞うのである。