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《没後20年目》加藤大治郎とMotoGP…進化した現代の4ストロークマシンに不世出の天才が乗っていたら
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2022/01/21 11:01
1976年7月4日生まれの加藤大治郎。バレンティーノ・ロッシに対抗しうる才能として将来を嘱望されながらWGPへのフル参戦は4年のみで、26歳で逝去した
その後、鈴鹿サーキットの天候は崩れ、不安定な路面コンディションでアタックにミスした大ちゃんは予選11番手に終わる。そして迎えた決勝日は晴れ上がり、3列目11番手の大ちゃんは1周目7番手、2周目に6番手とポジションを上げた。しかし、トップ集団を形成したカピロッシとロッシ、そしてマックス・ビアッジ(ホンダ)の3人は、大ちゃん、トロイ・ベイリス(ドゥカティ)、宇川徹(ホンダ)、カルロス・チェカ(ヤマハ)が4~7位争いをしていたセカンドグループをじりじりと引き離す。そのセカンドグループの混戦の中でバトルを繰り広げた大ちゃんは、3周目の130R立ち上がりでバランスを崩し、その後に続く、シケイン進入で転倒した。
事故から2週間、僕は四日市に滞在し、大ちゃんが収容された医療センターに通った。思うことはひとつ。天候が崩れなければ予選グリッドは、あんなに悪くなかったはず。確かに、Wシケインになったせいで優勝は難しかったかも知れないが、それ以降の大会で大ちゃんがどんなレースをみせてくれたのだろうかという思いだった。
ライダーの体格を問わないマシンの進化
あれから20年、MotoGPマシンの進化は目を見張るものがある。いろんな人に「この20年でどのくらいMotoGPマシンは進化したの?」と聞かれる。進化の基準は、おそらくラップタイムになるのだろう。タイヤの進化という要因もあるが、厳しい技術規則という足かせ手かせの中で記録を更新し続けるエンジニアリングには畏敬の念すら覚える。
その進化の恩恵を受け、いまは小柄なライダーたちが大活躍している。大ちゃんが亡くなって数年後にホンダワークス入りしたダニ・ペドロサは、大ちゃんより小さい158センチ。一時期、MotoGPマシンのエンジン排気量が800ccになったときに、ロッシを始めとする身長180センチ前後のライダーたちから小柄なライダーが有利だという声もあがったが、ペドロサは「そんなことはない。僕は大きくなりたくて毎日牛乳を飲んでいたんだよ」と笑わせた。
実際、最高峰クラスで小柄なライダーが有利だった時期は一度もないが、MotoGPの進化は、小柄なライダーたちのハンディキャップを取り除いた。電子制御の進化、シームレスミッションなどの登場で、ライダーはライディングに集中することができる。過去2年、怪我のためにタイトルから遠ざかっているが、すでに最高峰クラスで6回のチャンピオンを獲得しているマルク・マルケス(ホンダ)は、169センチと恵まれた身体ではない。その他、ドゥカティとホンダでチャンピオンを獲得したケーシー・ストーナーやヤマハで3度タイトルを獲得したホルヘ・ロレンソなども決して大きくはない。