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「今年は特にレベルが高かった」春高バレーで『ハイキュー!!』世代の高校生が見せた2つの“アップデート”と“大人たちの課題”とは?
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byAFLO SPORT
posted2022/01/11 06:00
初出場の日南振徳高校でエースを務めた甲斐優斗。2mの高さを武器に、巧みにスパイクを打ち分けた
勝った試合ならば饒舌に語ることもできるが、負けた後は後悔や憤りもあり、感情をコントロールするだけでも難しいもの。以前は、敗因を述べる際「自分たちのバレーができなかった」とか「気持ちで負けていた」という言葉が大半だった。
だが今大会は、選手たちが述べた敗因に明確な狙いを感じることができた。
「自分たちのサーブが弱かったので、相手の攻撃パターンを封じることができず、ブロックのシステムが崩された」
「ミドルの攻撃を軸に仕掛けたかったけれど、相手がリードブロックで対応してきたうえに、裏をかいても抜けた場所にレシーバーがいて拾われた」
その言葉を聞けば、普段の練習からただ漠然とではなく、意図を持ち取り組んでいることもよくわかった。
言うならば、バレーIQが高い。高校生たちの知識量は着実に増えている。その背景はどこにあるのか。ある出場選手の1人が発した言葉に、なるほど、と気付かされるヒントがあった。
「たぶん僕たちの世代は『ハイキュー!!』を、みんな普通に見ていますよね」
『ハイキュー!!』と「大学生の日本代表」の出現
高校バレーボールを題材にした漫画『ハイキュー!!』の連載が週刊少年ジャンプでスタートしたのは2012年。現在の高校3年生が03年、04年生まれであることを考えれば、彼ら彼女らが9歳の頃になる。シリーズ累計発行部数は5000万部を超える人気作で、さらに14年からアニメ放映が始まっている。
競技を始めた頃から、戦術や技術、それぞれのポジションの役割など、バレーボールの魅力をリアルに描く漫画の存在があった。つまり、バレーIQを高める土壌があったと考えれば納得できる。
さらに影響を与えたのは、目標となる選手の出現だ。昨年の春高とインターハイ準優勝校で、今大会は3回戦で惜しくも日南振徳に敗れた駿台学園の梅川大介監督(39歳)はこう言う。
「高橋藍選手や大塚達宣選手のように、高校を卒業してすぐに上のカテゴリーや代表で通用するレベルの選手が出て来ているし、Vリーグのチームと同じようなイメージを持って練習している高校も増えた。それに加えて今までバレーボールは野球やサッカーと比べて、戦術や技術の情報源が少なく、遅れていましたが、ネットが普及したことでいろいろな試合が見られるようになった。映像を見て、じゃあ自分たちもこんな練習、プレーをやってみよう、こんなトレーニングをしてみよう、と若い子たちがどんどん吸収して、実践してきた。その結果、間違いなく“個”の能力も上がっている選手が増えたな、と感じさせられました」
“超高校級”が揃った今大会
今大会、男子では日南振徳の甲斐を始め、高松工芸の牧大晃(ひろあき/3年)、習志野の高橋慶帆(けいはん/3年)、女子では就実の深澤めぐみ、つぐみ姉妹(共に3年)など、将来の日本代表、いや、すぐにでも即戦力として期待できるアタッカーが揃った。実際に牧は昨年の日本代表合宿にも参加している。鍋倉監督や梅川監督だけでなく多くの監督が、2m超えの選手や日本代表並みの打点の高さを誇る“超高校級”と期待される高校生の活躍に舌を巻き「日本の未来は明るい」と声を揃えた。
単に「すごい選手」がいるからではなく、そんなバレーIQの高い選手たちが戦術を遂行するから面白い。各試合の解説を務めた歴代の日本代表たちも「特に男子はレベルが高かった」と大会を振り返った。