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高川学園“グルグル回るセットプレー”、きっかけは昨年の初戦敗退…部員100人超のサッカー部に一体感を生む「部署制度」って何だ? 

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安藤隆人

安藤隆人Takahito Ando

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posted2022/01/07 11:06

高川学園“グルグル回るセットプレー”、きっかけは昨年の初戦敗退…部員100人超のサッカー部に一体感を生む「部署制度」って何だ?<Number Web> photograph by AFLO SPORT

実は昨年も連載コラムで取り上げていた高川学園の「部署制度」。それぞれが自覚を持ってサッカーに取り組んだ答えが、このセットプレーに詰まっている

 強化部の部長として、田代はまずセットプレーの守備の構築に尽力した。分析部にこれまでのセットプレーでの得点、失点のシーンを切り取ってもらい、それをトップチームの選手たちに共有した。

「鍵になってくるのは、クロスボールに合わせるのが得意な中山、林、加藤(寛人)。加えていちばん重要なキッカーの北、山崎、桑原(豪)とは何度も話し合った。守備に関してもマンツーマンにしたり、ゾーンにしたりと、トリックプレーをやりながらも、それに対応する守備も磨いてきました」(田代)

 強化部や分析部が連係することで、主軸だけでなく大所帯の部員全員の意見を集めることができた。田代を中心としたメンバーがその情報を集約し、再びチームに還元する。週に数日はセットプレーの練習時間を設け、一列に並ぶパターンやニアに固まるパターン、ショートコーナーでのパターンなどトリックプレーを試した。

 キッカーを務める北が「そこからどうやったら相手が困るセットプレーができるのかの話し合いが日常化していった」と変化を感じ取っていた頃、さらなるターニングポイントが訪れた。

「ちょっと回ってみようよ」

 選手権予選を控えた9月、いつものようにグラウンドでセットプレーの練習をしている時に、エース中山がいきなりこう提案した。

「何人かで手を繋いで、ちょっと回ってみようよ」

 突然の中山の提案に、キッカー北は「最初はふざけているのか、と思いました」と笑う。それでも田代やコーチ陣は「面白そうだね! やってみよう!」と尊重した。

 3本蹴って、1本もゴールには繋がらなかった。でも、「守備側がいつ、どこに、誰が入ってくるか分かっておらず、混乱している姿を見て、『これは使えるんじゃないか』と思った」と北は手応えを感じた。田代も「マンツーマンでディフェンスしてくるチームに対して、この動きで入っていったら、無理やりにでもゾーンディフェンスをしないといけなくなってしまう状況を作り出すことができる」と考え、提案者の中山に「これは使えるぞ!」と思わず声をかけたという。

 ここからトリックプレーの精度を上げる日々が続く。入念な話し合いのもと、複数のパターンを用意し、セットプレーの練習は一日に何本も繰り返した。

 “トルメンタ”の初お披露目は県予選準決勝の聖光戦。左FKを得ると、ペナルティーエリア中央で中山や林、加藤ら5人が手を繋いでグルグルと回り出し、最後は林がダイレクトボレーをゴールに突き刺して勝利に導いた。

 このシーンをベンチで嬉しそうに見ていたのが田代だった。

【次ページ】 悔しさよりもチームのために

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