第98回箱根駅伝(2022)BACK NUMBER
「次元が違いました」と敵将もお手上げ。青山学院大学の圧勝を生んだ「美しいフォーム」とは?〈第98回箱根駅伝〉
posted2022/01/07 11:00
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph by
Yuki Suenaga
仲間たちに迎えられて、アンカーの中倉啓敦(3年)が大手町のフィニッシュ地点に飛びこんでくる。日本テレビの実況アナウンサーが、歓喜の瞬間に合わせて、こう声を張り上げた。
「2年振り、6回目、青山学院大学、総合優勝! 区間新記録、大会新記録、復路新記録、すべてを塗り替えました」
チームメイトの手で、中倉の体が宙に舞う。続いて原晋監督が、次に飯田貴之主将(4年)が、そして同じく4年生で6区を走った髙橋勇輝が胴上げされた。歓喜のシーンはしばらく続き、やがて選手たちは係員に誘導されてビルの中に消えた。それからCMを挟み、テレビ中継が再開されてもまだ、2位以降のチームは大手町にも達していなかった。
実況が伝えたように、総合記録の10時間43分42秒は大会新記録。復路記録を2分11秒更新し、2位の順天堂大学に10分51秒もの大差をつける圧勝だった。
大会前から青学大の下馬評は高かったが、いったい誰がこれほどまでの一強レースになることを予測できただろう。
「原がいるからやる、いないからやらないではない」
青学大のこの1年は、悔しさを噛みしめることから始まっている。
前回の箱根駅伝は往路12位と苦しみ、優勝争いに加わることができなかった。そこからどのようにチームを立て直したのか。原監督が優勝会見で真っ先に触れたのも、このことだった。
「チーム全体の成長がこの結果につながったと思っています。青山メソッド(監督考案の選手育成法)を選手がしっかりと守り、ただしそこにとどまらずに、選手自ら何が足りないのか、課題は何か、一人ひとりが考えて行動してきました。まさに自らを律する自律ですね。原がいるからやるとか、いないからやらないではなくて、そういうことがチーム全体に浸透してきたのが青学の強さなのかなと思います」
前回は、主将の神林勇太が直前のケガで離脱し、レースプランの変更を余儀なくされた。精神的な支柱を失ったチームは、苦しくなったときにそこから挽回するだけの力を有していなかった。往路だけで区間二桁に沈む選手が3人出たが、今回は違った。
1区の志貴勇斗(2年)、3区の太田蒼生(1年)、5区の若林宏樹(1年)と箱根駅伝初出場となる下級生を大胆に3人起用したが、どの選手も自分のところで勝負を決めようと積極的に走る姿が印象的だった。