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『ウマ娘』は有馬記念でのオグリキャップ“伝説のフィナーレ”をどう描いたか? 制作陣の情熱が生んだ「オグリだけのストーリー」
text by
屋城敦Atsushi Yashiro
photograph byCygames, Inc./KYODO
posted2021/12/24 17:05
(左)『ウマ娘』のオグリキャップ(右)1988年の有馬記念を制した際のオグリキャップ
オグリキャップの“競馬ファンも唸る”キャラデザ
ゲームのメインとなる“育成”モードでは、キャラクターごとに独立したシナリオが用意されており、モデルとなった競走馬のエピソードをモチーフとしたオリジナルストーリーが展開する。競走馬を美少女化してはいるが、恋愛要素はあまり見られず(思わせぶりな描写はあるが)基本的には“スポ根”ものであるのが特徴だ。
史実では、目を離すと道端の雑草や馬房の寝ワラまで食べてしまっていたというエピソードが残っているが、『ウマ娘』のオグリキャップも底知れぬ食欲の持ち主でマイペースな性格。たこ焼きを食べに行こうとして道に迷う初登場時のイベントを始め、作中には“地方出身”、“天然ボケ”、“食欲”という性格面の特徴が随所に盛り込まれている。
キャラクターデザインも、中央時代の勝負服の黄菱山形がカチューシャのデザインに使われていたり、髪も全体は銀色(芦毛)で頭頂部が黒く前髪に流星が入っているなど、史実をうまく取り込んだ作りに。競馬マニアも思わず「なるほど!」と唸る細かさである。
“最強のライバルたち”との有馬記念
そしてストーリーは、地方から出てきたオグリキャップが中央で知名度を上げるためにさまざまなレースに出走したり、時には悩みながらもファンやメディアの後押しを受け、有馬記念(『ウマ娘』では馬の点がふたつ)勝利を目指す、という流れ。これは史実での知名度と本賞金を稼ぐための裏街道回りや、その中でアイドル的な人気を獲得していったというエピソードが元になっている。規則の壁に阻まれてクラシックに出走できなかった悲運、馬主交代とそれにともなう厳しいローテーションといった“えぐ味”もマイルドに昇華されているのだ。
タマモクロスや同じ“平成三強”のイナリワン、スーパークリークといったライバルたちと切磋琢磨しながら有馬記念制覇を目指すオグリキャップ。3年間の育成期間中、有馬記念は2年目と3年目の2回出走することになり、1回目の有馬記念はスーパークリークと、2回目はそこにタマモクロスが加わり、火花を散らしていく。
このあたりは史実と異なる展開ではあるが、オグリキャップとライバルたちが最高のパフォーマンスを見せた1988年の有馬記念がクライマックスのモデルになっているのだろう。