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ブラジルの超大物監督も「ボランチの語源」を知らなかった!《なぜ日本で「ボランチ=舵取り」説が広まったか》 

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沢田啓明

沢田啓明Hiroaki Sawada

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photograph byMasashi Hara/Getty Images

posted2021/12/20 17:02

ブラジルの超大物監督も「ボランチの語源」を知らなかった!《なぜ日本で「ボランチ=舵取り」説が広まったか》<Number Web> photograph by Masashi Hara/Getty Images

2018年、中村憲剛とイニエスタとのマッチアップ。「ボランテ/ボランチ」という言葉から中盤について考えを深めてみるのも面白い

 一方、ブラジル人の場合は(1)と答えた人の大半がフットボールライター。(2)は監督、選手(ボランチを含む)、ファンらで、理由のほとんどは言葉からの類推だった。

 僕はブラジルで(2)の説が本、雑誌、記事、テレビ番組で紹介されたのを見たことがない。しかし、監督、コーチ、選手ら現場の人の間では(2)が通説となっているようだ。

 元ブラジル代表の大物ボランチの回答も(2)だった。「なぜそう思うのですか」と尋ねたこころ、「思うんじゃない。間違いなくそうだ。少年時代、チームの監督から繰り返しこう言われたからね」と明かした。

 また、やはり(2)と答えた人の中には――素性がバレるので代表かクラブかは明らかにしないが、ブラジル、南米、世界の頂点を極めた元超大物監督もいた。なお「フットボール大国」ブラジルにもこのスポーツにほとんど関心がない人が一定数いる。そういう人は、「全く見当がつかない」として(3)と答えていた。

なぜ日本でこの説が広まったのか

 それでは、なぜ日本でこの説が本国ブラジル以上に広まったのか――。

 アンケートの結果から推測すると、日本のフットボール関係者かメディア関係者の誰かがブラジルの監督、コーチ、選手らから(2)の説を聞き、それを鵜呑みにした。そして、この説明があまりにもよくできているため、日本のフットボール関係者、メディア関係者の間で一気に拡散。孫引きに孫引きが重なったのではないか。

 そして、これだけ多数のメディアで繰り返し伝えられたら、多くのファンがそう信じ込んでしまったのも無理はあるまい。「ボランチ」という言葉の語感もいい。これが、英語の「ハンドル」では有難みが少ないし、サマにならない。

 ただし、世界中の人が守備的MFのことをボランチと呼ぶわけではない。各国における主な呼称は以下の通りだ。

 日本:ボランチ、守備的MF、アンカー
 ブラジル:ボランチ、カベッサ・デ・アレア
(注:ダブルボランチの場合、より守備的な方を第1ボランチ、より攻撃的な方を第2ボランチと呼んで区別する)
 ブラジル以外の中南米諸国:ボランテ、守備的ボランテ
 英語圏:守備的MF、セントラルMFなど
 スペイン:メディア・セントロ、ピボーテ
 他の欧州諸国:「守備的MF」、「セントラルMF」の各国語訳

ポジション名はプレーするエリアを指すことが多い

 ブラジルを除く南米では攻撃的、守備的を問わず、MFのことを「ボランテ」と呼ぶ。また、スペインではサイドのMFのことを右ボランテ、左ボランテと呼ぶことがある。これらの「ボランテ」は、いずれもカルロス・ボランチの名前から来ている。 

 このように、世界中ではないにせよ、多くの国で「ボランチ」もしくは「ボランテ」の呼び名が使われている。

【次ページ】 人名が呼び名となった「パネンカ」、そして「ボランチ」

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カルロス・ボランチ

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