熱狂とカオス!魅惑の南米直送便BACK NUMBER

ブラジルの超大物監督も「ボランチの語源」を知らなかった!《なぜ日本で「ボランチ=舵取り」説が広まったか》

posted2021/12/20 17:02

 
ブラジルの超大物監督も「ボランチの語源」を知らなかった!《なぜ日本で「ボランチ=舵取り」説が広まったか》<Number Web> photograph by Masashi Hara/Getty Images

2018年、中村憲剛とイニエスタとのマッチアップ。「ボランテ/ボランチ」という言葉から中盤について考えを深めてみるのも面白い

text by

沢田啓明

沢田啓明Hiroaki Sawada

PROFILE

photograph by

Masashi Hara/Getty Images

日本のサッカー用語でおなじみのフレーズ「ボランチ」。その語源について考察していくと、面白い背景が見えてきた(全3回/#1#2

 ボランチの語源に関する間違った説が、なぜ日本で(そして、実は世界中でほぼ日本でだけ)、かくも広く流布したのか――。この疑問を解き明かすための一助として、僕は自分のフェイスブック友達(ほとんどが日本人で、フットボールにかなり詳しい人が多い)、そしてブラジル在住のブラジル人と日本人の知人、友人、フットボール関係者に以下のような緊急アンケートを試みた。

<質問>
 ブラジルで守備的MFのことをvolante(ボランチ。より正確な日本語の発音表記はヴォランチ)と呼びますが、それはなぜでしょうか?

<答え>
(1)昔、そういう名前の選手がいたから
(2)ポルトガル語でvolanteは舵取り、ハンドルの意味。攻守両面でチームの舵取りをすべきポジションだから

 この結果は、なかなか驚くべきものだった。

<日本人>
(1)約10%(このうち、名前まで知っていたのは5%)、(2)約90%。全員がどちらかを回答した。
 <ブラジル人>
(1)約30%(ほぼ全員、名前まで知っていた)、(2)約50%、(3)わからない=約20%

(2)と答えた人の中には元超大物監督も

 日本人の場合、名前まで知っていたのは約5%だけで、ほとんどがメディア関係者だった。(1)と答えた人の半分(全体の約5%)は特に根拠がなかった。

(2)と答えた人は監督、コーチ、選手、クラブスタッフ、記者、カメラマンらフットボール関係者と一般のファン。「テレビ(試合の実況中継やスポーツ番組)、書籍、雑誌、記事、漫画などで知った」というのがその根拠で、自信たっぷりの人が多かった。

 事実、僕が知っているだけでも数冊の本で(2)の説を紹介している。いずれも、著者はかなりのベテラン。これに雑誌、新聞の記事を加えると、莫大な数にのぼるのではないか。

「プロクラブ(Jリーグ屈指の強豪)の新入選手紹介の席で、クラブ関係者がボランチの役割を表現する言葉として使っていた」という証言もあった。さらに「こんなわかりきったことを聞いて、沢田さん、大丈夫ですか」と心配してくれる人までいた。

 また、ごく少数だが「両方の説がある」と言う人もいた。

【次ページ】 なぜ日本でこの説が広まったのか

1 2 3 NEXT
カルロス・ボランチ

海外サッカーの前後の記事

ページトップ