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「あの冷静な川田将雅がむせび泣き」ラヴズオンリーユーら日本馬2頭が“米国の牙城”ブリーダーズカップ勝利、実際どれほどスゴい?
posted2021/12/10 06:00
text by
片山良三Ryozo Katayama
photograph by
KYODO
'84年に米国で創設されたブリーダーズカップ・ワールド・サラブレッド・チャンピオンシップは、その名で推測できるように、ブリーダー(生産者)主導の競馬のビッグイベントだ。
当初はアメリカ国内で繋養されている種牡馬の所有者にその種付け料1回分の資金負担を募り、その種牡馬の産駒のみに出走権が与えられた。'11年からは世界に門戸が広げられると同時に、年間の費用負担の緩和措置も進められた。
種牡馬所有者が支払う登録料は、北半球が種付け料の50%、南半球が25%と設定され、それが高額賞金の基金となっている。もちろん日本の主な種牡馬のオーナーは、必要な登録料を欠かさずに納め続けて「世界一」を常に睨んできた。
凱旋門賞が欧州の誇りであるように、BCは米国の牙城。簡単にその壁が破れるものではないというのは筆者の思い込みだったのか。カリフォルニア州サンディエゴ郊外のデルマー競馬場で開催された今年、日本馬がいきなりの2勝をあげたのだ。
米国を揺るがせた“大金星”
殊勲の史上初はラヴズオンリーユー(牝5歳、父ディープインパクト、母ラヴズオンリーミー、栗東・矢作芳人厩舎)。フィリー&メアターフ(3歳以上牝馬、芝11ハロン、GI)の大一番を、ゴール前の激しい競り合いを制して優勝。常に冷静なあの川田将雅騎手が感激にむせび泣いた。それほどの快挙だった。
もっと凄いことが、その3レース後に行われたディスタフ(3歳以上牝馬、ダート9ハロン、GI)で起きた。矢作厩舎の帯同馬と侮る見解まであったマルシュロレーヌ(牝5歳、父オルフェーヴル、母ヴィートマルシェ)の勝利がそれだ。
記録的なハイペースの中を冷静に後方で待機したオイシン・マーフィー騎手の、追い上げのタイミングがピッタリはまったにしても、米国のダートを制した事実は重い。しかもディスタフは、現行で13個あるBCのGI群の中で3番目に高い格付け。このあとにはターフとクラシックしかなく、その勝ち馬は慣例的に米国の古牝馬の年度代表馬の栄誉に輝くことになっているのだ。
米国を揺るがせた大金星が日本ではさほど話題になっていないのが気になる。日本は芝主体だけに最優秀古牝馬には届かないかもしれないが、せめて特別賞の用意は必要なはずだ。