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「藤井聡太竜王の序盤力がAI研究によって…」タイトル経験者・中村太地七段が語る19歳最年少四冠の《半端ない進化》 

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中村太地

中村太地Taichi Nakamura

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posted2021/12/02 11:03

「藤井聡太竜王の序盤力がAI研究によって…」タイトル経験者・中村太地七段が語る19歳最年少四冠の《半端ない進化》<Number Web> photograph by Kyodo News

史上最年少四冠に駆け上がった藤井聡太竜王。さらなる強さの源とは?(代表撮影)

 19歳という年齢で研究がここまで深くなるということが、そもそもあるのか? いや、今まではなかったです。その原因として研究の方法、具体的に言えば“AIがなかったから”というのは非常に大きなところです。

AIがもたらした「序盤戦術」の進化とは

 AIの出現がもたらした影響について、私なりに考えていくと……当初はAIは中終盤が強いのでそこを鍛えられるという風に思ってました。しかし今は逆に、序盤戦術に対してAIを研究で使うことが多くなっています。

 この形は先手がどれくらいいいのか、後手がこの形だと少し良くなさそう、この進行ならば後手番ながらそこまで苦しくなさそうで、互角で進められる……など、AIで最新流行の戦型を突き詰めて考えることで、いろいろと分かってきた面があるんです。

 私も研究をやっています。自分自身、序盤力の伸びがあったかと問われると難しいですが、知識量としては明らかに増えましたね。

 そんな風に棋士誰もが日夜研究しているところを、藤井竜王も当然やっている。そしてAIを有効活用し、いち早く成果が出てきているのだと思います。序盤は10~20年前でも“センスの部分が多い”との認識で、経験を積んで対局をこなしていって、この形が作戦勝ちだと体験して積み重ねていくしかなかったものです。しかし現代は、机の上でもちゃんとわかる時代になったのは大きいと思いますね、

天才的な中・終盤の能力にプラスして序盤の成長

 藤井竜王の中・終盤力はAIがない時代に築き上げた、本当に素晴らしい能力ですし、天才的な部分だと思います。それに加えての序盤力の成長は――AI時代ではなかったら、こんなには早くなかったのではないでしょうか。

 序盤でも数多くの知識量を得られるようになり、進化が非常に速い。その象徴的存在が藤井竜王であるとも言えるのでしょう。

 そんな中で豊島九段がJT杯決勝で藤井竜王に勝利して、連覇を果たしました。

 ここで勝ったのは豊島九段の気持ち的にもすごく大きいと思います。タイトルを藤井さんに奪われてしまった形ですが。ここで1勝を返すことで前向きに取り組めるのは間違いないし、自信になったと思います。

 また周囲が豊島九段を見る目、という意味でも大きい。「ああ、やっぱり豊島さんは強いんだ」という空気感は間違いなくあります。ここからまたタイトルに絡んでいくことは間違いない存在です。

早指し戦で負けているが……なぜ?

 藤井竜王が直近で負けた対局を思い出すと、JT杯に加えてNHK杯の深浦(康市)九段もファンとしては印象的だったと思いますが、ともに早指し戦ですね。

 何か理由があるか、ですか?

【次ページ】 藤井竜王は今や長時間の方が向いている

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