ツバメの観察日記BACK NUMBER
《高津監督に矢野監督、ビッグボス新庄も》野村克也チルドレンが球界を席巻 「人を遺すは上とする」を実践した名将の教えに迫る
text by
長谷川晶一Shoichi Hasegawa
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2021/11/23 17:03
3度の日本一に輝いたヤクルト時代の野村克也監督。モットーの「財を遺すは下、仕事を遺すは中、人を遺すは上とする」は、関東大震災後に東京の復興を成し遂げた政治家・後藤新平の言葉として知られている
後に、野村、森両監督とも「早くピッチャーを代えてほしかった」と語り、同時に「相手がそう思っていることもわかっていたので、絶対にうちのピッチャーは代えるつもりはなかった」と振り返っている。それを称して森氏は「不動という戦術」と言い切った。「何も動かないことこそ、積極的な作戦なのである」という意味であり、もちろん野村氏も同様に「不動」という作戦を選択したのだった。
日本シリーズ第2戦において、オリックスベンチは「早く高橋を代えてくれ」と思っていたことだろう。もちろん、前日の初戦においてセットアッパーの清水昇、クローザーのスコット・マクガフが不安定だったことも一因としてある。それでも、「不動」によって高橋を完封させた高津監督の采配には「野村の考え」が息づいているように思えてならない。
奔放なビッグボス新庄も「意外と気が合った」
そのヤクルト・高津を含めて、2022(令和4)年シーズンの監督を務めるのは、12球団のうち、阪神・矢野燿大、楽天・石井一久、西武・辻発彦、そして現在最も世間の注目を集めている日本ハムの“ビッグボス”新庄剛志。彼らはみな、現役時代に何らかの形で野村氏の薫陶を受けている。
阪神・矢野監督に、今年6月29日に行われた「野村克也氏追悼試合」について尋ねたことがある。その際に矢野は「野村さんの教えは今でもしっかり生かされている」と語りつつ、「でも、僕の派手なガッツポーズについては、絶対に認めてくれないと思いますけどね」と小さく笑った。
確かに、一部で「矢野ガッツ」と呼ばれている、喜怒哀楽を前面に押し出した矢野の采配スタイルは「監督とは威厳がなければならない」と考えていた野村氏にとっては認められるものではないのかもしれない。それでも矢野が野村チルドレンの一人であることは厳然たる事実である。
また“ビッグボス”新庄は、野村氏とは水と油のような正反対の性格であるにもかかわらず、「意外にも気が合った」と語り、定期的に食事を共にする仲だったと話している。野村氏は新庄のことを「天才型だ」と認め、彼の個性を殺さぬように自由にやらせることを選択した。