濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
たむ&白川&ウナギ「コズエン」の物語は“愛憎混じったメロドラマ”…白いベルトをめぐる同門対決は何を意味するか?《スターダム》
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2021/11/18 11:00
コズミックエンジェルズの3人。左から、ウナギ・サヤカ、中野たむ、白川未奈。
“呪いのベルト”か、“愛のベルト”か
団体に7つあるタイトルのうち、1年で5つに挑戦し2つの王座を戴冠。7番勝負をはじめ誰よりもシングルマッチをやってきたという自負もある。それはチャンスでも試練でもあった。スターダムでのレスラー生活を、彼女は「常に命の危機にさらされている」感覚だと語っている。ファンからの“お前に何ができるんだ”という視線も感じた。SNSで叩かれるのも当たり前。自らつけたキャッチフレーズ“傾奇者”らしく強気でいなければ、おそらくとっくに潰れていただろう。
強気さが魅力なのはたむも分かっていて、ただそれが「弱さを隠している」ようにも見えたそうだ。ウナギとたむは同じ部分を見て似たような感じ方をして、しかしそれを表現する方法が違った。
ワンダー王座を、たむは“呪いのベルト”と表現する。林下詩美が保持する“赤いベルト”が実力トップを競う頂点のベルトなら、白いベルトは怒り、嫉妬、挫折の経験、ネガティブでドロドロした自分でも認めたくない感情までさらけ出すものだと定義したのだ。単なるタイトル争いではなく、ドラマ性ありきと言ってもいい。
逆にウナギは、自分が勝って“愛のベルト”に変えると訴えた。たむは根底に愛があるからこそ呪いが生まれるのだと反論したが、それもウナギは分かっていた。呪いと愛は表裏一体。ならば自分は愛を“表”にしたいと。対戦相手でも、ユニットが別であっても、スターダムの選手としてスターダムを愛し、盛り上げようとするのはみんな同じだとウナギは考えている。ウナギにとってのスターダムは、厳しいけれども何よりもまず愛の世界なのだ。ここでもやはり、2人は同じものを見て違う表現をしていた。
タイトルマッチで会場に響き渡った衝撃音
呪いか愛か。単なる技の競い合いではなく主張をぶつけ合う闘いだから、タイトルマッチは激しいものになった。フィニッシュはたむの必殺技トワイライト・ドリーム(変形タイガースープレックス)。ウナギも新技「城門突破」、前回のたむ戦で3カウントを奪った「大儀であった」でマットに叩きつける。
だが大技ラッシュ以上に“白いベルト戦”らしかったのは打撃の攻防だ。ウナギのエルボー連打を、たむは腕を広げて受け止める。倒されると下から顔を蹴り上げた。バックスピンキックは的確に頭部を打ち抜く。コーナー上での打ち合いになると、ウナギが思い切り振りかぶって頭突き。“ゴッ”という(硬いもの同士がぶつかる時に特有の)音は会場後方にまで響いたのではないか。打ったウナギも、試合後しばらく「天井が回ってる」状態だったというから相当な一撃だ。
たむにとって、打撃攻撃は相手に気持ちを伝える行為でもあるという。タイトルマッチで張り手を多用するのは「それが一番、気持ちが伝わる技だから」だ。逆に言えば、打撃を食らうのは相手の気持ちを受け止めることではないか。
「分かってくれ」と殴り、殴られる。同じユニットだからこそ、どちらの思いも濃いものになる。