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菊池雄星、大谷翔平、佐々木朗希…なぜ岩手から“野球界の怪物選手”は生まれるのか? 現地取材で導く「3つの理由」
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byGetty Images/Nanae Suzuki/JIJI PRESS
posted2021/11/19 17:03
菊池雄星、大谷翔平、佐々木朗希など、近年岩手から野球界のスターが生まれ続けている
Kボール連盟関係者はこう話す。
「リーグ創設前は中学3年生が夏で引退して高校野球にスムーズに移行できませんでした。それが長年の岩手の課題だったんです。それをなんとかしないと、と思って作ったリーグなんですよ」
軟式野球をプレーしている中学3年生は6月頃に県中学総体が終わると引退で、高校入学までかなりの期間、ブランクができる。そのため入学後は硬式になれるのに精一杯という選手も多かった。しかし昨今の高校野球のベンチ入りメンバーの出身チームを見ると、リトルシニアに混ざって軟式野球経験者が多い。このことからも、Kボールの恩恵がとても大きいことが分かる。
理由3)リトルでも“勝利至上主義”を排除した指導
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大谷翔平選手が幼い頃に所属していた水沢リトルの練習と試合を見学する機会があった。
キャッチボールをしていた時のことだ。低学年の選手は球が散る。そのためコーチは、相手の胸元にボールを投げられる方法を低学年の子供たちでも理解できるように丁寧に指導していた。コーチの声がけの後、投げ方も受け方も格段に上手くなっていた。
試合ではバントをさせず、思い切って振るように指示を出す。
「打つのが楽しい時期だから、バントはさせないんです」
守備でも積極的なプレーを褒めていた。それがエラーになっても、捕球できず体に当てただけでも、硬球を怖がらず、チャレンジする姿勢を評価する。
さよなら負けに悔し涙を流した選手がいた。悔しい気持ちを持つことの大切さを教え、しかし指導者や保護者は勝ちにはさほど拘っていないように見えた。リトルで大事なことは、野球の基礎、プレーの面白さ、礼儀、チームワークで勝敗ではない。
大らかな指導者のもとで子供たちが楽しそうに伸び伸びとプレーしているのが印象的だった。
その年齢に必要な指導を提供し、幼い頃から子供たちを勝利至上主義に投げ込まない。それも素晴らしい指導の一つだと感じた。
岩手の指導者に聞く“リアルな指導現場”
岩手県沿岸の大船渡で、2012年冬から中学生の指導に携わっている鈴木賢太さんは試行錯誤しながら教えている。
「知人に打撃を見てほしいと頼まれて、最初は自分のやり方で教えていたのですが、すぐに壁にぶち当たりました。中学生は骨格から違うので指導した動きができず、結果に結びつかない。どうしてできないんだろうと悩んで、ヒントを探すべく野球の参考書などを読み漁りましたが答えが見つかりませんでした」