濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「フェリス卒の元銀行員」雪妃真矢と女子デスマッチファイター・世羅りさ “復活タッグ”がアイスリボンで目指す歴代最強《特別グラビア》
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakuya Sugiyama
posted2021/11/12 17:01
今年8月、アイスリボンの第53代タッグチャンピオンに輝いた世羅りさ(右)と雪妃真矢(左)
世羅「デスマッチをやることで怖いものがなくなった」
タッグを組んでいない1年半は、それぞれが独自の路線を確立する期間だった。世羅は新設されたFantastICE王座のチャンピオンとしてアイスリボンのデスマッチ路線をより強固なものにした。6月の山下りな戦は、団体初の蛍光灯デスマッチで“聖地”後楽園のメインイベント。世羅は敗れたが、練習生の頃からやりたかったデスマッチへの思いを貫き通した。観客からの鳴り止まない拍手は、試合内容だけでなく彼女の“デスマッチロード”への賞賛でもあったはずだ。
「デスマッチをやることで、何も怖いものがなくなりましたね。誰に何を言われても平気だなって。プロレスって、ヘタしたら死ぬかもしれない。デスマッチは特にそれを意識するんですよ。常に死地にいる感覚。だから“死ぬまでにやりたいことやらなきゃ”っていう気持ちも強くなりました。批判されるのを怖がってる場合じゃない。やらないよりは、やって怒られたほうがいい(笑)」(世羅)
フェリス卒→銀行員→プロレスラーになった雪妃
雪妃は、世羅との対戦で獲得したシングル王座ICE×∞のベルトを守りながら、団体に“反逆”する立場に回った。自己主張が少ない中堅どころを徹底的に挑発し、こき下ろした。団体の“顔”である取締役選手代表、藤本に頼りっきりでいいのかという思いからだ。
「ずっと言ってきたんですよ、アイスリボンは“藤本つかさと愉快な仲間たち”じゃダメでしょって。ベルトに挑戦する選手の顔ぶれも固定されがちだし、自分がチャンピオンになっても、いままでおとなしかった選手が目の色変えて向かってきたわけじゃなかった。だったら自分から波風立ててやろうと」
以前はそうではなかった。世羅はもともと演劇をやっており、映画出演がきっかけでプロレスに出会った。雪妃はフェリス女学院卒、銀行員をやめてレスラーになった。ともに“異色の経歴”で、アジュレボはベルトを保持しつつアイドル的人気もあった。弱さも見せて、そこが感情移入を誘う。それは自分たちも感じていたことだ。
雪妃はアイスリボンのために立ち上がった選手
かつての自分を「メンヘラでしたね(苦笑)」と世羅。デスマッチがやりたくて、でもできないジレンマに苦しみ、それを隠さなかった。雪妃は「太陽より月になりたい」タイプだった。シングルのベルトを巻いて自分がトップに立とうとは思っていなかったそうだ。
むしろ「タッグ屋」としてパートナーを光らせる立場がよかった。アジュレボでも、フィニッシュを取る世羅を支える立ち位置だった。シングル王座を狙うようになったのは、周囲の期待を感じてのことだ。団体のために立ち上がった、決意して自分を変えたと言ってもよかった。