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Jをめぐる冒険BACK NUMBER
関東1部(J5相当)のクラブが、あと5年で世界一? クリアソン新宿の“勝てる戦略”は「成功のモデルケース」になるかもしれない
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byCriacao Shinjuku
posted2021/11/11 11:03
関東リーグ1部優勝を決めたクリアソン新宿。11月12日からはJFL昇格を懸けて「全国地域サッカーチャンピオンズリーグ」の戦いに挑む
そもそも勝算はあったのだろうか。
「世間的にはなかったんだろうと思います。ただ、僕らとしては、そこをどう切り開くかという話でした。ひとつあったとすれば、自分の中で何度も『自分たちだけのためにやっていないか』と問いかけていました。みんなが納得する形で百年構想クラブというライセンスをいただけるのか、と」
そこで丸山は、地方を中心にJリーグの15クラブほどの経営者にヒアリングをした。
スタジアムの基準を満たさなくても、23区内にJクラブが誕生する意義はありますか――。
「そうしたら、反対がひとつもなかったんです。既存のレギュレーションに則って、スタジアムの問題を解決してきたクラブが『それはおかしい』という意見だったら、風向きは厳しいだろうと。でも、『人、物、お金を巻き込むようなクラブができるのはメリットしかない』と言っていただいた。これは大義としてチャレンジすべきだなと」
Jリーグ百年構想クラブへの申請は、一般的にはJリーグ入り(つまりJ3昇格)が現実味を帯びてくるJFL昇格後にするものだ。
だが、クリアソン新宿はJFLのひとつ下のカテゴリーである関東リーグ1部の時点で申請を行った。
「自分たちの時間軸の中で、最短でいきたかったんです。JFLに昇格してから申請して、優勝しても待たされるより、優勝してすぐにJ3に挑戦できたほうが、選手にとっても、ステークホルダーの方々にとっても魅力的じゃないですか。時間をかけたからといって、スタジアムのレギュレーションが大きく変わるわけでもないですから」
Jリーグへ提示した3つの案
審査において大きくモノを言ったのが、新宿区との関係性だ。
クリアソン新宿の理念と地域活動は、自治体から高く評価されていた。
包括連携協定の締結も、Jリーグ百年構想クラブの認定に大きなプラスとなったに違いない。
「申請のあとで包括連携を結ぶと、Jリーグに入るために地域が応援していると見られてしまう可能性があった。その意味では包括連携が先で、その後に申請したことにも大きな意味があると思っています。結果として、行政の考えと自分たちのスケジュールが噛み合った感じでした。ただ、区長がリスクを冒して『スタジアムを作ります』と言わざるを得ない状況には絶対にしたくないと思っていました」
そこでクリアソン新宿はスタジアムに関して、3つの案をJリーグに提案した。
・当面は都内にあるスタジアムを活用する
・新宿区内にある新国立競技場を平日夜稼働なども踏まえて活用する
・地域の民意や建設用地などの条件が整えば、区内に新スタジアムを建設する
「最終的には、新スタジアム構想がゼロではない、ということを伝えました。クリアソン新宿というクラブが生み出す価値が地域に認められて、いずれはスタジアムを作ったほうがいいんじゃないか、新国立があるじゃないか、そんな機運が高まっていく。そういう流れが本筋だと思うんです」
その結果、クリアソン新宿はJリーグ百年構想クラブに認定されたのだった。