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関東1部(J5相当)のクラブが、あと5年で世界一? クリアソン新宿の“勝てる戦略”は「成功のモデルケース」になるかもしれない 

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飯尾篤史

飯尾篤史Atsushi Iio

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photograph byCriacao Shinjuku

posted2021/11/11 11:03

関東1部(J5相当)のクラブが、あと5年で世界一? クリアソン新宿の“勝てる戦略”は「成功のモデルケース」になるかもしれない<Number Web> photograph by Criacao Shinjuku

関東リーグ1部優勝を決めたクリアソン新宿。11月12日からはJFL昇格を懸けて「全国地域サッカーチャンピオンズリーグ」の戦いに挑む

 株式会社Criacaoの代表である丸山はクリアソン新宿の代表でもあるが、クラブチームでは代表としての権限はほとんどない。

 クラブにおける重要事項の決定は、丸山、監督の成山一郎、キャプテンの井筒陸也、現場統括部門長の原田亮の4人による幹部ミーティングで行っている。

「成山はこういう選手が欲しいという要望を出す。井筒も意見するし、候補選手とコミュニケーションをとる。僕は理念や社員としてのあり方を説く。最終決定をするのは僕ですが、僕が獲りたいと思っても、成山がイエスと言わないと獲れないようになっていて、GMの権限を分散しています。意見がぶつかることもありますが、違和感のあるところに着地することはないですね。そもそも納得のいくまで話し合いますから」

 2019年に徳島ヴォルティスを退団した井筒の加入を境に、元Jリーガーが続々とクリアソン新宿のユニホームをまとっている。

 元横浜F・マリノスの小林祐三、元浦和レッズのGK岩舘直、元ジェフユナイテッド千葉のMF伊藤大介、元FC東京の森村昂太、元大分トリニータの黄誠秀(ファン・ソンス)、元栃木SCの瀬川和樹、元カマタマーレ讃岐の池谷友喜……。

 元プロ選手の在籍が増え、Jリーグ百年構想クラブに認定されたことで、現役Jリーガーからのアプローチも増えてきた。

 しかし、戦力がアップすれば誰でもいいというわけではない。選手獲得にはかなり慎重な姿勢を取っている。

あくまでも「文化や価値観に合う選手」

「クリアソンの文化や価値観と合う選手じゃないと。だから、誰からの紹介なのかは大事にしています。逆に、採用の時期にバタバタしないように、今のうちからいろんな選手と繋がっておいて、パーソナリティを理解したり、クリアソンを理解してくれているのか確認しておきたい。今日のような取材を通じて、他のクラブとは違うんだな、と感じてもらえる情報を出していきたいと思っています」

 実際、井筒とは彼が大学生のときからの知り合いで、井筒の考え方や人間性を理解したうえで、丸山自ら声を掛けた。小林も旧知の仲だった。

 選手の獲得方法が独特なら、選手との別れ方はもっと独特だ。

 現在のクリアソン新宿にプロ契約選手はいない。井筒ら元Jリーガーは大半が株式会社Criacaoで働く社員選手だ。

 ほかに、他企業で働く者もいれば、現役の大学生もいる。

 しかし、Jリーグに昇格すれば、プロ契約選手を保有しなければならない。

「J3に行けば、3人以上プロ契約しなきゃいけないんですけど、プロになっても副業で働けばいいんじゃないか、ということは本気で考えていて。クリアソン新宿の選手たちは株式会社Criacaoの事業との親和性が高いですから。また、今も、Jリーグに昇格してからも、選手にクビを宣告しないと決めています。会社やクラブの理念は中長期スパンで達成するものなのに、選手とは1年契約って厳しい話じゃないですか。もちろん、スタメンの11人に入るかどうかは監督の判断だけど、スタメンに入れないからクビという考えはない。たとえケガをしていても、社員や仲間としてやってもらいたいことはたくさんありますから」

 その結果、練習場である落合中央公園に100人の選手がいる、といった状態になるかもしれない。

「それも楽しんじゃいそうな気がしますけどね(笑)。引退しても本人が望むなら株式会社Criacaoの事業スタッフとして残るケースもあると思います。そもそも、そうあってほしい人間に仲間になってもらっているので。ラグビー選手と話すと、チーム愛がすごく強いんですよね。それって、この構造からきているんじゃないかなと。それをサッカーに持ち込みたいと言うと、サッカー関係者から『それは綺麗事だよ』と言われるんですけど、それならなおさら、やったほうがいいなって。そういう雇用形態にもチャレンジしたいと思っています」

【次ページ】 2026年までに「世界一」

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