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なぜ鍵山優真はGPイタリア大会で〈SP7位→逆転優勝〉を成し遂げられたのか? 演技中に何度も拳を握った理由「気合が湧いて、嬉しくて」
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byGetty Images
posted2021/11/09 11:06
GPシリーズ・イタリア大会にて、SP7位からの逆転優勝を果たした鍵山優真。
「ショートがボロボロ」から切り替えられたワケ
フリーは197.49で、自己ベスト更新。総合278.02で、最終グループ6人の演技が終わるのを待つことになった。
「(SPの失敗から)心の切り替えというものがすごく難しくて、全体通してこんなにショートがボロボロだったことがあまりなかったので、どういうふうに立ち直ればいいんだろうというのを、今日の朝の公式練習までずっと考えていたんですけど、練習が終わった後に、父に『立場とか成績とか関係なくただひたすら練習してきたことを頑張るだけ』と言われた。そこで思いっきり立ち直るというか、切り替えることができて、まあ(4回転)ループははずして、できること一つ一つやっていい演技ができて良かったです」
演技後、ミックスゾーンに来た鍵山は記者たちに向かってこう気持ちを語った。昨シーズン、ストックホルム世界選手権では初出場で日本勢最高の銀メダルを獲得。メディアの注目度も格段に上がった。
だがその全てを忘れて、毎日繰り返し練習してきたことを再現することだけに専念した。それがこの日の「グラディエーター」だった。
「アドレナリンがたくさん出てて」
後半、何度か拳を握りしめたのは振付なのか、あるいは嬉しくてつい出た動作なのか。そう聞くと、ちょっと笑いを含んだ声でこう答えた。
「アドレナリンがたくさん出てて、ガチガチで試合モードだったので、今冷静になって何をしたかあまり思いだせないんですけど、今シーズン一度もいい演技をしていなかったので、やっぱり跳べるジャンプが一つ一つ久しぶりにきまるたびに、跳べるぞ、やれるぞという気合が湧いてきて、最後のアクセルが来たときはもう嬉しくて、思わず笑顔もこぼれてしまいました」
こう話している間にも、最終グループの演技は続いていた。
鍵山よりも上にいた選手たちの中で、彼より上に行く可能性があるのは恐らくロシアのミハエル・コリヤダと、SPトップだったボーヤン・ジン(中国)だけだろう、と予想していた。SPのジンと鍵山の点差は17点余り。ジンが予定をしているジャンプを全て降りたら、彼の優勝だ。
だがどうしたのか、と思うほど最終グループはミスが続出した。コリヤダはジャンプでステップアウトが3度出て、鍵山のすぐ下についた。SP3位だった韓国のチャ・ジュンファンは、冒頭の4トウループで激しく転倒し、立ち直りきれないまま演技を終えた。イタリアのダニエル・グラセルは4ルッツと4フリップを降りたが、スケートの質はまだまだ世界のトップクラスに及ばない。グラセルはコリヤダの次についた。
ジンに一体何が起きたのか
いよいよ、最終滑走のジンが出てきた。すっきりした表情で、集中するように目を閉じて演技を開始した。こちらもやはりローリー・ニコルの振付で、曲はホアキン・ロドリーゴのギター曲、後半がラベル「ボレロ」のスパニッシュギターアレンジである。だがこの日のジンは、振付の良さを見せることが叶わなかった。冒頭の4ルッツからジャンプがきれいに決まらず、中盤の4トウループと、続いた3アクセルで転倒した。フリーは144.38で9位。総合7位まで落ちた。
「体調も、精神状態も悪くなかった。すべてのジャンプで思い切りいけたのですが、タイミングがちょっと合わなかったのかも。でも後悔はないです」
中国語で、そうコメントしたジン。自国開催のオリンピックに向けてのプレッシャーは、おそらく半端なものではないのだろう。あと残る3カ月で、どのように調整してくるのか注目される。