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なぜ鍵山優真はGPイタリア大会で〈SP7位→逆転優勝〉を成し遂げられたのか? 演技中に何度も拳を握った理由「気合が湧いて、嬉しくて」

posted2021/11/09 11:06

 
なぜ鍵山優真はGPイタリア大会で〈SP7位→逆転優勝〉を成し遂げられたのか? 演技中に何度も拳を握った理由「気合が湧いて、嬉しくて」<Number Web> photograph by Getty Images

GPシリーズ・イタリア大会にて、SP7位からの逆転優勝を果たした鍵山優真。

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田村明子

田村明子Akiko Tamura

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 鍵山優真が氷の上に出ていくと、「頑張れー!」という日本語が聞こえてきた。それに応えるようにこくん、と頷くとスタート位置につき、自分を落ち着かせるように胸に手をあてて、ふうっと大きく息を吐いた。

 GPシリーズ第3戦イタリア大会、前日のSPでは、冒頭の4サルコウ、続いた4トウループとも失敗して、7位という予想外の厳しいスタートだった。この第1戦目でメダルを逃せば、12月の大阪GPファイナル進出の望みはほぼ消える。

 鍵山にとって、背水の陣だった。

 映画「グラディエーター」のメロディをピアノアレンジした美しい音楽が始まった。演奏は中国の人気ピアニスト、ラン・ランである。

 振付師ローリー・ニコルは音楽の持つ力を熟知し、選曲のセンスの良さでも知られている。彼女は過去にも本気で勝負がかかっている選手の五輪プログラムには、奇をてらわず「人の心に触れる名曲」を選んできた。ラン・ランのピアノを聞きながら、ローリーがどれほど鍵山に期待をかけているかがひしひしと伝わってきた。

 出だしの振付で、落ち着いた表情の鍵山が胸の前の両手をまるで心を開いていくかのようにゆっくり広げていった瞬間、なぜか今日は絶対うまくいく、と確信した。

上半身の隅々まで、常に神経が行き届いている

 最初の4サルコウが、きれいに入った。

 鍵山の長所は、スケーティングがよく伸びてリンクを大きく使い、その流れを生かした質の良いジャンプを跳ぶことだ。だがそれだけではなく、上半身の隅々まで常に神経が行き届いている。大技に向かう時でも、腕がダラリと落ちる瞬間がない。常に胸骨を開いて胸を張り、肩甲骨から腕をあげるので、腕が長くラインが美しく見える。

 だがどれほど美しかろうが、ジャンプが決まらなければ点は出ない。

 この美しいポジションを保ったまま、鍵山は3ルッツ、4+3トウループ、3アクセル+1オイラー+3サルコウと、次々ジャンプをきめていった。

 後半の4トウループもきまり、3フリップ+3ループ、そして最後の3アクセルも入った瞬間、鍵山は拳を握りしめて、こぼれるような笑顔を見せた。

【次ページ】 「ショートがボロボロ」から切り替えられたワケ

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