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《追悼》10万人の地鳴りのような合いの手…作曲家・すぎやまこういちが遺した傑作『GIファンファーレ』日本ダービー秘話 

text by

梅津有希子

梅津有希子Yukiko Umetsu

PROFILE

photograph by陸上自衛隊中央音楽隊提供

posted2021/10/10 06:01

《追悼》10万人の地鳴りのような合いの手…作曲家・すぎやまこういちが遺した傑作『GIファンファーレ』日本ダービー秘話<Number Web> photograph by 陸上自衛隊中央音楽隊提供

わずか20秒の演奏で熱気は最高潮に

『GIファンファーレ』は、ゲーム『ドラゴンクエスト』の音楽を担当していることでも知られる、作曲家・すぎやまこういち氏が、関東(東京・中山)で開催される中央競馬のGIレースのために書き起こした曲だ。武蔵野音楽大学のトランペット専攻を経て、'86年に入隊した樋口隊長は、この曲の楽譜が届いた日のことをよく覚えているという。

「JRAから届いたすぎやまさんの楽譜を見た瞬間『5拍子か……。難しいな』と思いました。そしてNHK交響楽団による参考音源を聴き、難しい以上に『かっこいい!』と感じたのが第一印象です。他の隊員たちからもとても好評でしたね」

まるで騎手になった気分? 客席から「頼むぞ樋口!」

 ファンファーレの楽器編成は、トランペット×4、ホルン×4、トロンボーン×4、チューバ×2、パーカッション×4の計18名。演奏するメンバーは毎回変わる。

「式典やイベント、コンサートなど、我々が演奏する本番は年間130回に上り、100人弱のメンバーで随時対応しています。ファンファーレを演奏するメンバーは、他に演奏する行事の日程なども考慮して最終決定しています」

 樋口隊長はトランペット奏者であったが、指揮を担任する幹部として入隊。初めて日本ダービーで指揮をしたのは'98年のこと。

 これまでに競馬場での指揮は何度も経験しているが、忘れられないエピソードとして、背後の客席から突然「頼むぞ樋口!」と叫ばれた出来事をあげた。

「何で私の名前を知っているんだろうと驚きました。会場のスクリーンを見ると『指揮 樋口孝博』と私の名前が大きく映し出されており、ああ、だからかと(笑)」

 本番前日まで個人練習を重ね、メンバーが集まって合奏し、最高の演奏が出来るよう、入念にコンディションを整える。当日は朝7時に朝霞駐屯地を出発。東京競馬場に着いたら控え室で音出しをし、まずは「お昼の演奏会」を馬場内で行う。例年、流行りのポップス曲や「走れコウタロー」「ロッキーのテーマ」などの馬にまつわる曲など数曲が演奏される。その後、ファンファーレの演奏隊はレースコースへとつながる地下道で待機し、本番に臨む。なお、地下道はサラブレッドたちが通るため、音は一切出せないという。

【次ページ】 「絶対に失敗出来ない」トランペットの緊張と重圧

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