濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
誰もが“ケンカマッチ”を期待したが…朝倉未来がRIZIN新大会で見せた“寝技の意味”とベルトへの渇望「ケンカにも戦略はある」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2021/10/07 17:01
10月2日に初開催となった『RIZIN LANDMARK vol.1』で対戦した朝倉未来と萩原京平
一本勝ちを逃したことに関しては「一本取らせない力が上がってましたね」と素直に萩原の成長を認めていた。その萩原も、朝倉の闘い方に対して不満はない。
「強引に中に入っていく作戦だったんですけど、それができなかった。殴り合いになったほうが盛り上がったとは思うけど、相手の弱いところで闘うのがMMAなので。相手が確実に勝ちにくるというのは分かってたんで。そこを重点的に練習してきたのに対応できなかった」
格闘技にもケンカにも“戦略”はある
あるいはこれが“ケンカ”というものなのかもしれない。ケンカは勝つためにやるもので、極端に言えば生きるか死ぬか。そこで“見ている人間が盛り上がるかどうか”を考えはしないだろう。朝倉がケンカ三昧の青春時代を過ごし、最終的に少年院に入ったことは有名だ。彼は以前インタビューで、格闘技とは別物だがケンカにも戦略があるのだと語っていた。
「格闘技にはルールがあって、その中でみんなが努力したり工夫する。体重(階級)も一緒です。ケンカは体重も人数も違うし武器を使ってくるヤツもいる。やる場所によっても戦略が違います。だから(格闘技とケンカは)全然違いますね。共通するのは気持ちの強さが大事ということくらいですかね」
相手の体の大きさ、場所、人数、武器。そういった要素に応じて戦略を組み立て、朝倉はケンカに勝ってきた。格闘技でも相手の弱点、動きの癖を見抜くのが抜群にうまい。ファイターとしての朝倉はストライカー(打撃)タイプ。しかし打撃は萩原も得意で、それならより確実な寝技で勝とうという選択をした。
「今まで(見せる)機会がなかっただけで、寝技が急にうまくなったわけではないです」
打撃ほど得意ではないのかもしれないが、グラウンドはもとから持っている武器。“らしくない”闘い方をしたつもりもないのだ。ファンの期待に100%応えたわけではなかったが、それもまた“朝倉未来の闘い”だった。そうして、リベンジとRIZINフェザー級のベルトに向けて前進した。海外での闘いも視野にあったが、今はそれよりもリベンジとベルトだ。
「リベンジしてないのに海外には行けないでしょう。今それ(海外進出)を言ったらおかしなヤツです」
「RIZINフェザー級のベルトは俺が一番似合う」
あくまで理路整然。屈辱的な負けを味わったことで、RIZINという舞台への愛着も強まったようだ。
「RIZINをもっと盛り上げたいですね。俺がベルトを巻かないと、そうならないのかなと。RIZINフェザー級のベルトは俺が一番似合う。今までも俺が引っ張ってきた自負があるので」
チャンピオンの斎藤は、10月24日に防衛戦を行なう。勝てば大晦日に朝倉とのリマッチか。だが「再起戦に勝っただけで挑戦権獲得でいいのか」というファンの声も出てくるだろう。金原正徳、中村大介といったベテランも、ベルトを狙いRIZINフェザー級に参入してきた。“役者”がいるからドラマが盛り上がる。
10.2『RIZIN LANDMARK』のセミファイナルでは、シュートボクシング、ONE Championshipで活躍してきた立ち技の大物である鈴木博昭が初参戦を果たした。もともとMMAをやりたかったという鈴木はプロレスラー・奥田啓介をヒザ蹴りからパンチ連打、パウンドでの追撃とたたみかけてレフェリーストップ勝利。今回は71kg契約だったが、適正階級はフェザー(66kg)だ。テイクダウンディフェンスもしっかりしていただけに、これから同級の台風の目になる可能性は十分ある。
“役者”がいるからドラマが盛り上がる。それは、各々の思惑が渦を巻く群像劇だ。だからこそ、朝倉の「RIZINフェザー級は俺が盛り上げる」という意識も強くなるのだろう。ここから大晦日、そして来年へ。フェザー級戦線はノンストップだ。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。