サムライブルーの原材料BACK NUMBER
ミスしても「今考えても仕方がない」GK谷晃生に聞く、20歳なのにいつも冷静なワケ<東京五輪PK戦は“データより感覚”>
posted2021/10/05 11:02
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
JMPA
あの大舞台、あの場面。
経験値の高いベテランなら慣れたものだろうが、20歳のGKからすれば緊張しないほうがきっと難しい。極度の集中を呼び込むのもきっと容易ではない。
だがあの日も谷晃生は、落ち着いていた。何度も修羅場を潜ってきたベテランの如く、落ち着き払っていた。無理に呼吸を整えることも、テンションをコントロールすることもない。ゴール前で静かに構え、静かにキッカーと対峙した。
先の東京オリンピック男子サッカー、準々決勝のニュージーランド戦。スコアレスのままPK戦にもつれこみ、谷は2人目リベラト・カカーチェのキックを読んでボールを弾き出すと3人目クレートン・ルイスが打ったコースにも反応して、上に外させた。ベスト4進出最大の立役者となった。
「もっと緊張するところだったのかな」
「なぜ(冷静だったの)かは自分でもよく分からないんですよ。終わってみて、もっと緊張するところだったのかなっていう感じはありました。周りの選手、スタッフから声を掛けてもらっていて、ポジティブな思考しかなかった。負けたらどうしようとか、止められなかったらどうしようとか、一切そういう思考はなかったんです」
彼はそう、サラリと言った。
あれから2カ月。
湘南ベルマーレに戻り、A代表入りしてカタールワールドカップ(W杯)アジア最終予選のメンバーにも選出された。東京オリンピックでの活躍が認められたからにほかならない。
ニュージーランドとのPK戦に入る前、川口能活GKコーチと何やら話し込んでいた。相手キッカーの情報が書かれてあったが「覚えられなかった」という本人のコメントがニュースでも紹介された。ここにも泰然自若ぶりがよく表れている。普通なら必死に覚えようとしてもおかしくないが、彼は敢えて情報よりも己の感覚を優先した。無理に覚えようとはしなかったのだ。
彼は語る。