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「ポイントが取れない…」なぜ絶対王者の寺地拳四朗は王座陥落したのか? トレーナーが明かした「ジャッジへの違和感」の正体 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byNaoki Fukuda

posted2021/09/28 11:07

「ポイントが取れない…」なぜ絶対王者の寺地拳四朗は王座陥落したのか? トレーナーが明かした「ジャッジへの違和感」の正体<Number Web> photograph by Naoki Fukuda

9月22日に開催されたWBC世界ライト・フライ級タイトルマッチにて対戦した、寺地拳四朗(左)と矢吹正道

 加藤トレーナーは自軍がすべてのラウンドを取っていたと感じていたわけではない。ある程度幅を持たせてポイントを読むのはセコンドの常識である。その上で39-37の2ポイント差をつけているか、悪くて38-38だと考えていた。だからフルマークと知って「こっちだ」と勘違いした。ところが採点は非情にもまったく逆だったのである。

「採点だけがまったく想定外になってしまった」

 序盤の展開をコンパクトに振り返ってみよう。拳四朗はいつも通り小刻みにフットワークを使いながらジャブ、ジャブで距離を保つボクシングを展開した。矢吹は頭を低い位置に置いて、ジャブはあまり打たず、つまりはジャブの差し合いで勝負しようとはせず、拳四朗が出てきたところにジャブ、右を合わせるという戦い方だった。細かく足を動かしてジャブを突くのは寺地本来のスタイルである。どちらかが明確に相手にダメージを与えるような展開ではなかったが、矢吹は目が腫れ始め、少なくとも寺地が思い通りのボクシングを展開しているように見えた。

「拳四朗が試合をコントロールしていると感じていました。ジャブも当たっていた。練習通りであり、プラン通りです。矢吹くんは拳四朗に対して待ちのボクシングというか、引き込んで大きいパンチを振ってきました。あの戦い方も試合前に想定していた通り。だからすべて想定内で、むしろ想像以上の展開になった。ところが採点だけがまったく想定外になってしまったんです」

 ちなみに矢吹は試合後のインタビューで、4回終了後の公開採点を問われ、「40-36はチャンピオンかなと思った」と素直に答えているが、そこに「やられた」というニュアンスは含まれていない。強打の持ち主でKO勝ち狙いの矢吹にしてみれば40-36が自分でも相手でも大きな問題ではなかったのだろう。一方、拳四朗陣営にとっては大問題だったのだ。

試合はまれに見る激戦へと突入

 4回を終わって4ポイント差とは、残り8ラウンドのうち6つを取ってドロー。チャンピオンは引き分けでも防衛とはいえ、勝とうと思ったら7つ取らなければならない。ということは8ラウンドのうち1ラウンドしか落とせないという計算になる。拳四朗は一発で試合を決めるタイプではなく、12ラウンドでボクシングを組み立てるボクサーだ。確かに序盤の4ポイント差は重かった。

 それでもチャンピオンは表情一つ変えず、5回から数十センチほど距離を詰め、被弾するリスクを犯して攻めていった。拳四朗は先に仕掛けてパンチを打ち込んでいったが、矢吹のカウンターもよく当たるようになる。5、6回の攻防を見て、加藤トレーナーは「これは逆転が難しくなってきたな」と感じた。

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