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「ポイントが取れない…」なぜ絶対王者の寺地拳四朗は王座陥落したのか? トレーナーが明かした「ジャッジへの違和感」の正体 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byNaoki Fukuda

posted2021/09/28 11:07

「ポイントが取れない…」なぜ絶対王者の寺地拳四朗は王座陥落したのか? トレーナーが明かした「ジャッジへの違和感」の正体<Number Web> photograph by Naoki Fukuda

9月22日に開催されたWBC世界ライト・フライ級タイトルマッチにて対戦した、寺地拳四朗(左)と矢吹正道

「序盤はジャブを打ってプレッシャーをかけて、後半になって相手が(仕方なく)出てくるという展開を思い描いていました。矢吹くんも拳四朗を前に出てこさせたかったと思うんです。こちらは思惑通りだった序盤の4ラウンドが評価されず、前に出て行くしかなくなった。矢吹くんが『待ってました』というボクシングをやらざるを得なくなってしまったんです。これが2ポイント差だったらもう少し様子を見たかもしれない。でもフルマークでしたから」

 チャンピオンは公開採点を受け、より攻撃姿勢を強めてリターンに対してリターンを狙っていった。7回からは相打ち覚悟で右を合わせていくという、さらにリスクの高い戦い方を選択しなければならなかった。拳四朗がアグレッシブに攻め、矢吹はカウンターで打ち返し、試合はまれに見る激戦へと突入していった。

 8回の公開採点は79-73、78-74、77-75で矢吹リード。拳四朗は中盤でもポイント差を詰めることができず、もはや自分のボクシングをかなぐり捨てて倒しにいくしかなくなった。そして9回、拳四朗はボディを効かせて矢吹を下がらせ、猛攻を仕掛けて挑戦者をダウン寸前に追い込む。矢吹がのちに「途中であきらめかけた」と振り返ったのはこのあたりだろう。逆転勝利が見えてきた拳四朗だが、右まぶたを大きくカットして出血。とどめを刺すことはできなかった。

 拳四朗は10回も倒しにいったが、ダメージの深い矢吹が一発のパンチから攻勢に転じ、最後の力を振り絞って拳四朗に襲いかかると、ロープを背負った王者にこれでもかとパンチを浴びせ、主審がたまらず割って入って試合終了。不利と言われた矢吹が不屈の闘志でアップセットを完遂した。

「考えても考えても答えが出ない…」

 加藤トレーナーは矢吹の精神力を称え、10回に一瞬のチャンスを逃さずに仕留めきった勝負強さに拍手を送った。勝者の矢吹は称えたい。ストップにもまったく異論はない。ただし4回までの採点に関しては、試合から3日たっても、どうしても消化することができずにいる。

「あれから試合を映像で何回か見返したんですけど、やっぱり最初の4ラウンドは拳四朗が試合をコントロールしていたようにしか見えないんです。あそこまで思い描いた通りでポイントが取れないとなると……。う~ん、考えても考えても答えが出ないというか、自分のボクシング観を変えないといけないというか……」

 拳四朗はコンディションも良く、トレーナーの立てた作戦通りに試合を運んだ。そしてポイントは取れなかった。劣勢に追い込まれてもあきらめることなく、肉を切らせて骨を断つようなボクシングを展開して勝利まであと一歩のところまで迫った。選手に責任はまったくない。加藤トレーナーは今、猛烈に自責の念にかられている。

【次ページ】 ジャッジとの“感覚のズレ”に気がつくべきだった

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