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「ポイントが取れない…」なぜ絶対王者の寺地拳四朗は王座陥落したのか? トレーナーが明かした「ジャッジへの違和感」の正体
posted2021/09/28 11:07
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Naoki Fukuda
WBC世界ライト・フライ級タイトルマッチが22日、京都市体育館で行われ、ランキング1位の矢吹正道(緑)が王者の寺地拳四朗(BMB)に10回TKO勝ちで新チャンピオンに輝いた。これまで同王座を8度防衛し、このクラスの4団体王者の中でナンバーワンと評価されていた安定王者はなぜ敗れたのか。寺地サイドの視点でその理由を探ってみた。
具志堅用高の持つ国内ボクシング記録の金字塔、世界戦V13の更新を狙っていた拳四朗がまさかの敗北で王座から陥落した。試合は年間最高試合候補との声が上がる激戦となり、挑戦者として王者を攻略した矢吹へ惜しみない拍手が送られるのは当然だが、なぜ拳四朗は敗れてしまったのか、という分析もファンとしては知りたいところだろう。
拳四朗トレーナーが語った“誤算”
今回、取材に応じてくれたのは拳四朗と二人三脚で歩んできた三迫ジムの加藤健太トレーナーだ。寺地のV8を支えただけでなく、多くのチャンピオン、ランカーを育成している35歳の若き腕利きである。
試合後、拳四朗が8月下旬に新型コロナウイルスに感染し、8日ほどのブランクを作った影響を指摘する声が多く聞かれた。わずか12日の延期では調整期間が足りなかったという見方である。加藤トレーナーはこれを真っ向から否定する。
「コロナの影響というのは一切なかったと思っています。試合前の会見で勝つためのボクシングが練習で作れていると言いましたが、拳四朗はその通りのボクシングをしてくれました。動きもよかったし、コンディションが悪かったとはまったく感じませんでした」
加藤トレーナーが挙げる最大の誤算は4ラウンドまでの採点である。4回終了後に公開された採点は、ジャッジ1人が38-38のイーブン、残り2人が40-36のフルマークで矢吹を支持していた。これによっての勝利の方程式は大きく狂ってしまったのだ。
「私は拳四朗に指示を出しながら、1分間のインターバルの終わりのほうで公開採点を聞きました。最初の発表が38-38、次に40-36と読み上げられたとき、『ああ、フルマークでリードしているのか』と思ったんです。インターバルが終わって下に降りてきて周りに確認したら『負けてますよ』と。正直『えっ』という感じでした」