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「我らのキャプテン、ここにあり!」ドイツ1部で若きチームを鼓舞する遠藤航…その戦闘姿勢と“柔和なハンドタッチ”の意味 

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島崎英純

島崎英純Hidezumi Shimazaki

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photograph byGetty Images

posted2021/09/26 17:45

「我らのキャプテン、ここにあり!」ドイツ1部で若きチームを鼓舞する遠藤航…その戦闘姿勢と“柔和なハンドタッチ”の意味<Number Web> photograph by Getty Images

今季よりシュツットガルトのキャプテンを務める遠藤航。若い選手が多いチームをいかにしてまとめ上げるのか

 試合はフライブルクの韓国代表MFチョン・ウヨンが、試合開始から9分間に連続ゴールをマーク。早くもシュツットガルトが窮地に立ちます。マスク未着用、そして声援も許可された(ワクチン接種証明は必要)サポーターのフラストレーションは、当然頂点に達します。

 今季のブンデスリーガ1部クラブの中で、最も若い平均年齢24.8歳のチームを構成するシュツットガルトの面々は動揺の色を隠せず、ホームであることがハンデかのような苛烈なプレッシャーを受けているように見受けられました。

以前とは異なる立ち居振る舞いを

 その間、28歳の遠藤は何をしていたかというと、周囲を悠然と見渡しつつ、ピッチ中央に立ち続けているだけでした。

「あれっ?」と思いました。

 以前の遠藤は劣勢時にそれなりに感情を露わにしていました。例えば激しく手を叩いて味方を鼓舞するようなシーンも見受けられたのです。でも、僕が抱いた違和感はすぐさま払拭されました。彼は自らが備える意志を態度ではなく行動で表すことを旨とし、豪快にギアを上げ、敵陣へ前進し始めたのです。

 178cm・75kg。ブンデスリーガーの中では小柄な部類に入る体躯が燃え盛り、ボール奪取、ドリブル突破、縦パスが次々に連鎖します。それに呼応した味方も、薪をくべられたかのようにエンジンをフル稼働させ、フライブルク陣内へ突進するようになりました。

 それでもサッカーにはミスが付き物で、ときには一旦退却を余儀なくされることもあります。そんなとき、遠藤は以前と異なる立ち居振る舞いをするようになりました。彼は、ミスをしたか、成果を得たかにかかわらず、挑戦し続ける仲間に労いの意を込めて柔和なハンドタッチを交わすようになったのです。

 敵への戦闘的な姿勢、味方への包容力は相反する性質を持ちます。シュツットガルトのキャプテンに就任した遠藤は、その両面を併せ持っている。そんな彼は決してひとりではありません。熾烈な乱打戦の中、2-3の敗戦に終わったゲームでホームサポーターが最も大きな歓声を浴びせたのは、チームの攻撃が成就せずに一転反撃を受けたとき、誰よりも速く相手ボールホルダーへスライディングタックルしたキャプテンの勇姿に対してでした。

「我らのキャプテン、ここにあり!」

 その瞬間、記者席で小さくガッツポーズした僕に、真横にいたドイツ人記者がサムズアップしてくれたときの嬉しさは格別。一両日はその感情を思い返して美味しいビールを飲めました。

【次ページ】 味方と頻繁にハンドタッチを交わす

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