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オシムが示す日本サッカーの到達点とは? 「知性がとても重要だ」「誰もが日々、日本から学んでいる」… 

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田村修一

田村修一Shuichi Tamura

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posted2021/09/23 06:02

オシムが示す日本サッカーの到達点とは? 「知性がとても重要だ」「誰もが日々、日本から学んでいる」…<Number Web> photograph by Getty Images

07年、日本代表監督時代のオシム。09年に日本を離れ、現在はオーストリアの自宅で療養しつつ、世界のサッカーを眺め暮らしている

「ある特定のクオリティに焦点を当て、選手として何が必要なのかを突き詰める。サッカーの能力だけに限らない。知性やメンタル面でのクオリティなど、様々な面を見ていかねばならない。サッカーだけを見ていればいいのではない。知性が様々な部分に大きく貢献していることを理解すべきだ。ひとりの選手が必要とするすべてのクオリティを列挙する。言葉で議論するだけでは足りない。世界の歴史を知る必要があるかも知れないし、数学や化学、地理など多くの学問の知識も必要になるだろう。学校に行って学ぶことが絶対に必要だ。

 そのうえでサッカーに新しい情報を与える。知性がそこでは何よりも求められる。知性なしには働けない。語られたことすべて、書かれたことすべてを選手は認識しなければならない。だがそれはちょっと量が多すぎる」

サッカーと知性と世界のあり方

――しかし選手にとっては必要でしょう。

「だからこそ学校に行くべきだ。彼らが何かを確実に理解できる本物の学校だ。知性があるのはいいことだが、それでも目指すべきは……、生来身についた知性とは少し距離をとったほうがいい。

 莫大な金を得るにはそれなりの頭脳も必要だ。トップクラスの選手が素晴らしいのは間違いないし、彼らには知性がある。メッシはバカではない。メッシならば、学問の道に進んでいたら教授になれただろう。

 だが、戦争をコントロールする術や金をコントロールする術を学ぶ必要がある。今日の世界には貧しい人々がたくさん存在する。どうすれば今日や明日を生きる人々の力になり、彼らを助けられるのか。それもプレーをしながら。

 知性がとても重要だ。サッカーでは大金を得ることができるが、その金をどう使えばいいかを考える。得るのも使うのもいい。だが、どうやって、何に、何故といったことを考える。考えるべきことはひとつではない。いくつもある。メッシに払う1000万ドルとサラーに払う1000万ドルは同じではない。彼らがそれで何をするかをよく見る。何に使うと決めるのか。使い方がよくないのであれば、それは彼らの知性やノウハウが十分ではないからだ。

 人間にしろ組織にしろ、支援ができるものたちがいる。他方で彼らの支援を必要としているものたちも大勢いる。彼らを助けねばならない。知性やノウハウなどすべてを動員して。

 ところで君は、今日は何を食べたのか?」

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イビチャ・オシム

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