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「批判される方々に心から…」日本のチームメートに嫉妬はなく温かい だが“難民認定ミャンマー代表GK”の言葉が哀切極まる理由
text by
木村元彦Yukihiko Kimura
photograph byKentaro Takahashi
posted2021/09/18 17:02
Y.S.C.C.横浜のフットサルチームに加入したピエリアンアウン。果たしてどんな道のりをこれから歩んでいくのか
「恐れを知らないガッツ」「勇気のある飛び出し」
GKコーチの田中はネットに上がっていたミャンマー時代のピエリアンアウンのプレー集を独自に探し出して見ていた。
「エリアからの思いきった飛び出しとかを見て、恐れを知らないガッツのある選手だという印象を受けました」
田中は最初、言葉の問題を心配していた。
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「どんなふうにコミュニケーションを取ったらいいのか考えていましたが、英語もそこそこ理解してくれるし、あとは競技の上での意思疎通だから、それほど大変ではなかった。実際に見てると、適応能力がいい。そしてラファもそうですけど、良い意味でプレーの幅が整っていないんです。日本人選手は何かと形にこだわるけど、そうすると逆に集中がボールから切れてしまうことがある。それが無い。
競技の特性上、サッカーよりもフットサルはフィールドとゴールの間にボールが落ちてくるケースが頻繁だし、至近距離からのシュートも多い。それに対してはアウンの勇気のある飛び出しはストロングポイントになると思います」
田中は指導をする上で、決して自分がイメージする定型に選手をはめようとしない。選手からの学びを大切するタイプのコーチである。何より、教え過ぎて選手本来の良さを消してはいけないという考えがある。ブラジル育ちのラファやミャンマーでユース世代から代表を務めてきたピエリアンアウンへのリスペクトを忘れていない。
この育成哲学はサッカーも含めてY.S.C.C.横浜に深く根付いているものと思われた。
監督の前田佳宏はこんなことを言うのだ。
「うちのクラブがアウンを受け入れると聞いたときは、何の驚きも無かったですよ。むしろYSらしい責任感を感じましたよ。本当にボールで世界平和の実現を提唱していますから」
最も早く「Welcome」の姿勢を示したのは現場だった
実際、代表の吉野次郎がピエリアンアウンを練習参加させるにあたって、社内スタッフやスポンサーなどに根回しを進める中で、最も早く「Welcome」の姿勢を表明したのは、現場だった。
サッカーの監督のシュタルフ悠紀リヒャルトは吉野からの打診にその場で「歓迎しますよ」と返事をしている。フットサルを率いる前田もまた同じ気持ちだった。
「僕はどんな選手に対してもそうなんですが、プレーよりも先にその人間を見るんです。アウンがどう生きて来たか。それはしっかりと知ることができました。その上で一緒にやりたいと強く思いました」