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「批判される方々に心から…」日本のチームメートに嫉妬はなく温かい だが“難民認定ミャンマー代表GK”の言葉が哀切極まる理由
text by
木村元彦Yukihiko Kimura
photograph byKentaro Takahashi
posted2021/09/18 17:02
Y.S.C.C.横浜のフットサルチームに加入したピエリアンアウン。果たしてどんな道のりをこれから歩んでいくのか
「人に興味を持つと、その背景をもっと知りたいと思いますよね。僕はアウンに出遭った前と後では見える風景が違って来たんです。ミャンマーの現状ももちろんですが、ベラルーシやウガンダ、そしてアフガニスタンで起きている事が自分の立っている所と地続きて考えられるようになりました。アウンが来てくれたことは、自分の人生にとって大きな学びになりました。本当に本人は想像以上にシャイで……。でもようやく慣れてきて、弄ったりできる仲になってきたところです」
日系ブラジル人三世のライバルも力を認めた
宿本からの一斉メールにすぐに返信した田淵ラファエル広史は、自身がサンパウロ生まれの日系ブラジル人三世で、16歳のときに来日して苦労をした経験から、積極的にピエリアンアウンとコミュニケーションを取ろうと考えていた。
練習参加初日には、フットサル用の膝のサポーターを持ってないのを見るや、自分のスペアを気前よくプレゼントするシーンが見られた。ピエリアンアウンが「いや、君の分が無くなるから悪いよ」というジェスチャーをすると、「I have many!」と笑って返した。
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「お祖父ちゃんの国ではありますけど、僕も全然日本語が分からないまま来日しましたから、アウンの気持ちが分かるんです。僕は最初名古屋オーシャンズに入団して、右も左も分からない中で寮の同室の北野聖夜(現Y.S.C.C.横浜)さんが英語でどんどん話しかけてくれた。それが本当にありがたかったんです。次は僕がアウンに声をかけ続けようと思ったんです」
ポジションが同じであり、先発の座を争うライバルとなるラファは素直にピエリアンアウンのプレーを称賛した。
「さすが国家代表ですよ。反応が速いし、勇気があるし、身体もフットサルにしては大きいから、すごくポテンシャルを感じますね」
ゴレイロとして「これは獲ろう」と思わせるほどだった
チームの強化・編成を司るGMの渡辺瞬とGKコーチの田中匠もまた選手としての高評価を下していた。
渡辺は2017年にチームのFリーグ加盟が決まった際に「5年後に人気、実力ともにNo.1のチームになる」という中期計画を立てていた。
「アリーナを満員にして、優勝トロフィーを掲げるということですよ。ちょうど来年が5年目ですから、強化も勝負しないといけない」
そんなときにサブのゴレイロが出場機会を求めて退団していた。
「タイミング的にゴレイロを補強しないといけないと考えていたときに、吉野代表からアウンの話を持ち込まれたんです。サッカーの方では5番目のGKだけど、プレースタイル自体がフットサル向きだと。実際に見てみて、アウンは確かに少しブランクがあって、フィジカルが落ちている印象は受けましたが、失点するにしても『あれっ?』というおかしなミスがまったく無かった。これは獲ろうとなったわけです。
フットサルっていうのは、10センチ、20センチ、相手をずらしてギャップを作るという作業を求められます。緻密なフォーメーションもあって最初は慣れないかと思いますが、期待するに十分なものを感じました」