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神宮球場の整備に欠かせないアルミ製トンボを作る“意外な”会社…きっかけはある高校野球監督の「これ、立ったらええのに」
posted2021/09/12 11:00
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
SANKEI SHIMBUN
スポーツの現場で目にする道具は、スポーツメーカーや専門会社が開発したものとは限らない。例えばグラウンド整備に欠かせないトンボ。神宮球場では、外付け階段や手すり、テラスを得意とする「森田アルミ工業」のトンボ、AReco(アレコ)が活躍している。
アルミ加工会社が、なぜトンボを?
素朴な疑問を森田和信社長にぶつけると、「2000年あたりから積極的に新規事業に乗り出し、その中でトンボが提案されました。みんなポカンとしていましたが、発案者は自分の子どもが野球をやっていて、“そういえばトンボは消耗品だな”と思ったそうで」
2010年に完成した1号機は、予想以上の好評を博した。半世紀、アルミを手がける森田トンボは従来のアルミ製トンボより手触りがよく、非常に軽いからだ。グッドデザイン賞を受賞したようにモダンで、当然錆びない。
開発メンバーはユーザーの声に真摯に耳を傾け、アレコをさらに進化させた。
「最大の変化は自立化。ある高校の監督から、“これ、立ったらええのに”と言われまして」
神宮球場がアレコに声をかけた理由
整備中、手や足で細かな作業をすることがあり、そのとき寝かせたトンボの接地面や柄の先が、地面にわずかな段差やくぼみをつけてしまうことがある。その悩みが自立することで解消され、作業効率ももちろん向上。
自立するトンボ、アレコにやがて神宮球場から声がかかる。
「いちばんの魅力は値段だったそうです。アレコは幅80cmのものが税別4300円。これが安いと思われたらしく」
神宮球場が安さを重視したのは、プロに加えて、高校、大学、社会人と、とにかく試合が多いからだ。木製トンボでは摩耗、腐朽が早く、頻繁に買い替えなければいけない。
「アレコは安く長持ちしますが、それは接地面にペットボトルのキャップなどからできた、再生プラスチックを使っていることも大きいかと。当初この部分には木を使おうと考えましたが、再生プラは加工の手間が省けて安上がり。しかも木に比べて、摩耗も少ないので」
思わぬ反響もあった。神宮のグラウンドキーパーから、接地面と柄の継ぎ目を補強する三角の板が、「クツについた土を落とすのにちょうどいい」と大歓迎されたのだ。
ARecoという名が物語るように、環境への負荷が少ない森田トンボはエコマーク認定商品。持続可能な社会を目指す動きはグラウンド整備の定番、トンボからも始まっている。