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24歳“ジェンダーと戦う女性力士”今日和に聞く、相撲と女人禁制「急に英雄視されて、それって正しいのか?と…」
text by
小泉なつみNatsumi Koizumi
photograph by株式会社アイシン
posted2021/09/13 06:00
2019年、英国BBCが選出する「今年の女性100人」に選ばれた相撲選手の今日和さん
女子相撲にプロはない。プロ力士が所属する大相撲は伝統の名のもと、現在まで女人禁制を貫いている。女性力士はプロの舞台を夢見ることすらできない現状についてどう思うか今さんに尋ねると、意外な言葉が返ってきた。
「大相撲をはじめ、モンゴル相撲やスポーツとしてのアマチュア相撲、奉納相撲など、相撲にはいろんな種類や側面があります。その中で女人禁制というのは、大相撲だけにある考え方なのかな、と私は思っていて。だから私たちは大相撲の土俵に上がるよりまず、オリンピックの土俵に上がりたいね、って話しているんです。私自身は『土俵の上では誰もが平等』とずっと教わってきたし、今もそうだと思っています」
「相撲界の女性差別に取り組む力士」として今さんに取材をしていた筆者は正直、面食らってしまった。「大相撲は変わらなきゃいけない」とか「女人禁制は差別だ」といった言葉を想像していたからだ。
「私自身はジェンダーをまったく気にすることがないまま、ただただ相撲を楽しんでいるだけだったんです。でもBBCのことで注目されるようになってから突然、“ジェンダーに対して戦っている女子相撲選手”になってしまって。相撲が好きで続けてきただけなのに、急に英雄視されるような感じがあって、それって正しいのかな? と正直、少し前まですごく悩んでいたんです」
周りは「女の子が相撲を頑張ったところで何になる」
今さんは舞の海の出身地としても知られる青森県鰺ヶ沢町に生まれた。兄の通っていた相撲道場に入ったのは小学校1年生の時。相撲の盛んな地域だったが、周囲の大人たちから「女の子が相撲を頑張ったところで何になる」と言われたことは一度や二度ではない。着替えはいつも男子トイレで、大相撲や実業団、大学相撲など、将来と相撲を簡単に結びつけられる男子に対して、女子に選択肢はほとんどなかった。
「小さい頃から稽古が嫌いでよく『やめたい』って言ってたんですけど、そういう時に監督は『相撲を頑張ってたら大学に行ける』とか『いい仕事がもらえるんだぞ』みたいなことを男の子には言うんですけど、女子の自分たちは言ってもらえなかったんですよね。男子と女子の間に差があることは、小学校3、4年の頃には気づいていました。
ただ私はその頃から全国大会に連れて行ってもらうことが増えて、日本全国に友だちができたんです。大会は遊びに行くような感覚で、相撲を頑張ってたら青森から外に行けるんだって、それがモチベーションになっていました」