大学で女子相撲を続けていた身近な先輩が世界3位になったこともあり、今さんは小学生の時から世界選手権の存在も知っていた。「“田舎あるある”かもしれないけど、“世界”という響きにもの凄くキラキラしたものを感じた」。プロの道がなくても、今さんが目標に困ることはなかった。

　それでも、全国高等学校総合体育大会や国体にまだ女子枠はなく、高校・大学で女子選手を受け入れている学校もごくわずか。女子選手の競技力向上のための支援も充分ではない。

後から知った“妹が相撲を辞めた理由”

「相撲界は男子と女子の間にさまざまな格差があります。男子はアマチュア相撲でも100年以上の歴史がありますが、女子相撲は発足24年で、まだまだマイナースポーツです。でも、マイナースポーツがマイナースポーツであり続けている理由のひとつには、 ジェンダーも関わっているんだろうなって今は思っています」

　今さん自身は、さまざまな格差をジェンダーの問題と捉えることなく、純粋に相撲を楽しめてきたと語る。ただ最近になって妹さんからある話を打ち明けられた。

男性部員とも取組練習をするという　©株式会社アイシン

「妹は小6で相撲をやめてしまったんですけど、彼女が今になってようやく、女子の着替え場所がないことがきつかった、と話してくれたんです。あったとしてもすごく離れていて行きづらいから我慢していた、ということでした。あと、女性指導者の少なさを気にしている子もいます。男子トイレでの着替えを不便に感じたこともなかった自分とは違って、いろんな子がいるんだと改めて感じました」

「相撲やる意味ないよね」と言われなくなったけど…

　小学校3年生までは男子相手でも負け知らずだった今さんは、アスリートとして卓越した才能を持っていた。早い段階から世界を夢見ることができ、競技者として“メインストリーム”を歩き続けることができたことを、「恵まれていた」と話す。

「私も結果を残せるようになってから、『女子が相撲やる意味ないよね』みたいなことを言う人がいなくなっていったんですよね。いまだに『勝たなきゃ意味がないよね』とか、『ご飯が食べれなきゃ仕方ない』と言う人もいます。でも、強さを競う競技としての環境だけでなく、ただ純粋に相撲が好きでやりたい人が続けやすい環境を整えることも、相撲の普及のためには欠かせないと思ってるんです。

　自分はいわゆる日本のトップクラスで競技できているわけですけど、私が気づかない部分で他の選手は悩んだりしていると思うし、そういう意味でいったら、女子相撲の選手同士でも悩みの共有をちゃんとできていません。かといって誰かがそれをフォローしてくれてるわけでもないから、問題意識を持っています」

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