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《全国制覇》智弁和歌山「マウンドに集まるの、やめないか?」中谷監督が甲子園の前に選手へ伝えていたこと
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph bySankei Shimbun
posted2021/08/29 17:15
和歌山大会決勝でも、マウンドに集合しなかった智弁和歌山ナイン
宿敵を破ってつかんだ2年越しの甲子園切符。智弁和歌山の選手たちは喜びを爆発させたかったことだろう。しかし勝利の瞬間、マウンドに駆け寄る選手はいなかった。思わず拳を突き上げたが、派手に喜ぶことも、集まることもなく、1人1人駆け足で整列に向かった。
コロナ禍だからということもあるが、それだけではない。試合後、中谷監督はこう明かした。
「実は昨日、選手たちと、『マウンドに集まるの、やめないか?』と話をしました。時代の流れもあるし、礼に始まり礼に終わると言われる高校野球で、この強い市立和歌山という相手に敬意を表して、その相手を待たせてワーッと集まるのをやめようや、と。まずは礼を終えて、スタンドの応援にもお礼を述べた後に、感情を爆発させたらいいと思うよ、と。
彼らが子供の頃、智弁和歌山のOBたちのそういう(マウンドに集まって喜ぶ)姿を見て憧れていた部分もあると思う。それでも今日、相手に敬意を表して自制してくれている姿を見て、涙が出そうになりました」
最後のボールをさばいた三塁手の高嶋は、「相手を尊敬する気持ちを持って、礼が終わった後に喜ぶというのを、僕らの代からやっていこうと話し合って決めました」と胸を張った。
20人全員が出場した和歌山大会
今回の和歌山大会では、登録メンバーの20人全員が出場した。競っている試合でも選手交代を行い、準々決勝では、途中から出場した1年の小畑虎之介がサヨナラ勝ちを決める犠飛を放ち、準決勝では9回に代打で登場した3年生捕手の石平創士が3点本塁打を放つなど、途中出場の選手も輝いた。
昨夏はコロナ禍で選手権大会(甲子園)は中止となったが、都道府県ごとに独自大会が開催された。“甲子園につながらない大会”の中で気づきがあったと中谷監督は言う。
「昨年、あの大会をやっていただいて、全員で戦う素晴らしさを、僕自身感じました。できるだけうちに来てくれた子全員に、試合に出る機会を与えるというか、そのレベルに上げられたらと。それが高校野球の大事なところなのかなと、昨年の大会で考えさせられるものがありました。コロナ禍の中で感じた感覚は、もう元には戻らないですね」
昨年は練習や試合ができない期間が長かった分、選手たちと対話する機会が多かった。
「上を目指す選手ももちろんいるんですけど、高校で全力でやりきりたいと思っている選手もいるし、親御さんの思いも感じました。口だけじゃなく、本当に全員で戦うというところは、今年は体現できているかなと思います」
とはいえ、常に甲子園出場、勝利が期待される伝統校だけに、簡単なことではない。「もちろんです。智弁和歌山である以上、負けるつもりはまったくないですから」とキッパリ。「ただ」と、苦笑しながら続けた。