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前田健太、中崎翔太、そして玉村昇悟…育成のカープで「高卒2年目投手」が毎年デビューしている理由とは
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PHOTO
posted2021/08/30 11:02
玉村に甲子園経験はないものの、福井県立丹生高校時代には「越前のドクターK」と呼ばれる活躍で、同校を県大会準優勝に導いた
あの日味わった挫折が、今でも戒めとなって一軍での活躍につながっている。
高校野球からレベルが格段に上がったプロの世界で味わう衝撃は、プロ野球選手として初めて設定される指標となるのかもしれない。
長期的な目標とは別に、短期的目標が明確となることで、練習の質は自然と上がる。これまで漠然とやっていたトレーニングの意図や狙いを考え、投球練習でも実戦の残像を描きながら意識が上がる。
挫折と成功体験のバランス
菊地原投手コーチはいう。
「プロとの違いに気付くことは必要。でも、プロのすごさばかりを感じさせてもダメだろうから。その中で抑えられる感覚にも気付けないといけない」
10代の選手にとって、挫折と成功体験のバランスは大事なのだろう。
小林はプロ初黒星の阪神戦から約2カ月後の8月1日ウエスタン・リーグ中日戦、3回を投げて3回2失点だった。
「取られた2点はガチンと打たれて取られた失点ではなかったかなと。カウントを不利にせず、有利にできたところもあり、変化はあるのかなと思います」
残った結果以上に、手応えを得た内容だった。投球を振り返る表情はどこか、プロの投手らしくなってきた。
育成のサイクルは止めてはいけない。2年目のデビューが、その先の将来を約束してくれるわけではない。高校から入団しても、同学年が大学を卒業するまでに戦力外となる選手もいる、厳しいプロ野球界。その先に続く道は、自ら切り開いていくしかない。