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前田健太、中崎翔太、そして玉村昇悟…育成のカープで「高卒2年目投手」が毎年デビューしている理由とは
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PHOTO
posted2021/08/30 11:02
玉村に甲子園経験はないものの、福井県立丹生高校時代には「越前のドクターK」と呼ばれる活躍で、同校を県大会準優勝に導いた
ほかにも後にエースとなり、米大リーグに渡った前田健太(ツインズ)、3連覇の守護神として通算115セーブの中崎翔太も高卒2年目にデビューを果たしている。
特筆すべきは、前田と山口を除けば、ドラフト中位以下の指名投手ばかりということだろう。将来性を見極めたスカウト陣の眼力の高さが、「育成の広島」を支えている。
今年、高卒1年目の小林樹斗はすでに二軍で5試合に登板している。春季キャンプからブルペンで150kmを計測した投球が首脳陣の評価を一気に上げ、4月3日の早期デビューにつながった。2試合中継ぎ登板して、二軍から離れて調整し、再び6月2日から実戦登板。実戦と個別トレーニングのサイクルを過ごしている。
挫折から学ぶこと
6月9日のウエスタン・リーグ阪神戦では2点リードの6回から2 イニング で7安打6失点(自責5)でプロ初黒星を喫した。登板2試合目以来の失点は、自分の現在地が鮮明となる登板となったという。「コントロール、球の強さが足りない。全体的に未熟だなと思った」。特に7回2死一塁から一軍経験のある陽川尚将に打たれた右翼席への一発は、衝撃だった。「右打者に逆方向に打たれたのは人生で初めてだった」。高卒1年目であれば、その結果が良くも悪くも、すべてが血肉となる。成功体験よりも、挫折の方が成長につながることもある。
玉村がそうだった。
1年目の昨季、防御率の成績は残っていない。公式戦唯一の登板は20年11月1日ウエスタン・リーグ中日戦。6回から登板するも、打者6人に6連打を浴びて、1つのアウトも奪えないままマウンドを降りた。「トラウマっす」。今でも脳裏にこびりついて離れない苦い記憶。
「力勝負をしてもやられることが分かったので、より丁寧に。あとは打者との駆け引きをしっかりしないといけないと思ってやっています。試合前はそういうイメージが湧いてくる。あれを経験したから、こわいです」