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〈奇跡の復活劇〉3度の骨折を乗り越えたトウカイテイオーが「93年の有馬記念」でビワハヤヒデを抜き去った瞬間
text by
齋藤翔人Tobito Saito
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2021/09/05 11:01
伝説の93年有馬記念を駆け抜けるトウカイテイオー
無論、テイオーが不在の間にターフの主役は大きく入れ替わり、この有馬記念には、出走14頭中8頭がGⅠ馬と、史上まれに見る豪華メンバーが集結。
その中で、1番人気に推されたのは、岡部騎手騎乗の4歳馬ビワハヤヒデ。いわゆる“新・平成三強”の一角で、春は惜敗が続いたものの、秋になって大変身。前走の菊花賞では、2着に5馬身差をつけるレコード勝ちで初めてGⅠを制し、三強争いから一歩抜け出して、現役最強馬の座を狙っていた。
2番人気に続いたのは、前走ジャパンカップを制したレガシーワールド。3番人気には、三強の一角で、柴田政人騎手にダービージョッキーの称号をもたらしたウイニングチケットが推されていた。
片や、テイオーの実績は、このメンバーでもNo.1だったが、中363日でのGⅠ勝利は過去に例がなく、来シーズンに向けての肩慣らしと見るのが一般的だった。
しかし、有馬記念=奇跡が起きるレースというイメージからか、その勝利を信じる声もまた、少なくなかった。というのも、複勝で8番人気に過ぎないテイオーの単勝人気は、4番人気だったのである。
オグリキャップが起こした奇跡の再現へ
──勝つか、大敗か。
この単・複の人気のギャップは、かつてオグリキャップが起こした奇跡の再現を夢見るファンが、いかに多いかの表れでもあった。そのテイオーに騎乗するのは、当時“天才”と呼ばれた田原成貴騎手。それまでに数々のGⅠを制し、前年、敗れた際にコンビを組んだのも同騎手。当時の敗因を、誰よりも分かっていたことだろう。
ゲートが開くと、予想通り、前年覇者のメジロパーマーが真っ先に飛び出した。ただ、その直後にテイオーがつけたことは意外だった。それはまるで、ターフに戻ることができた喜びを体全体で表わしているようでもあった。スタートに失敗して競馬にならなかった前年の苦い思い出が教訓となったか。細心の注意を払ったスタートを、最高の形で決めたのである。
そこから一度、中団まで下げると、大観衆が待つ1周目のスタンド前へと入ってきた。
大観衆の様々な思いが交錯する歓声に押されたか。ここで、4歳馬のビワハヤヒデとウイニングチケットは、やや折り合いを欠く仕草を見せていた。
やっぱり、ビワハヤヒデが強いのか……その瞬間。
その後レースは淡々と流れ、迎えた勝負どころの3~4コーナー中間点。