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「調子どう?」ファンの声掛けに応えたら…ダービー2勝の名ジョッキー大崎昭一を襲った“悲劇の冤罪事件”とは
posted2021/09/05 11:00
text by
小川隆行Takayuki Ogawa
photograph by
Keiji Ishikawa
ローカル競馬で声をかけられ、何気なく応じたダービー2勝のベテランジョッキー。この行為により4カ月間の騎乗停止となり、騎乗依頼が激減。憔悴したまま関西に身を移した。携帯電話のない時代、名騎手は毎週のように自宅の電話から離れず騎乗依頼の連絡が来るのを待ちわびた。頑張る者を神は見捨てない。7年後、二冠馬トウカイテイオーを打ち破る“神騎乗”で、満天下にその名をしらしめた。
競馬を愛する執筆者たちが、90年代前半の名馬&名レースを記した『競馬 伝説の名勝負 1990-1994 90年代前半戦』(星海社新書)から一部を抜粋して紹介する。〈レッツゴーターキン編/イソノルーブル編・オグリキャップ編・トウカイテイオー編〉。
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今から3年前の2018年有馬記念で、1頭の馬に注目をしていた。ブラストワンピース。3歳馬ながら古馬相手の新潟記念を勝っており、素質の高さを感じていた。鞍上の池添謙一は1番人気のレイデオロよりも一瞬早く仕掛けた。「このタイミングだと思っていた」とレース後にコメントをしている。ドリームジャーニー、オルフェーヴル(2勝)に続いての有馬記念制覇。ここ一番での腕前は、まさしく仕事人である。
そのレースぶりを見て、かつての名騎手を思い浮かべた。大崎昭一。ダイシンボルガードとカツトップエースでダービーを2勝。その他GⅠ級競走で8勝を挙げた名手である。
大崎を思い出したのは騎手としての腕だけではない。ブラストワンピースでGⅠ初制覇を飾った大竹正博調教師が、大崎の実子でもあるからだ。
「テン乗りで有馬制覇」通算970勝の名ジョッキー
父の大崎昭一は長らくリーディング中位をキープしていた名ジョッキーで、通算970勝を挙げている。テンポイント・トウショウボーイとともに3強を形成したグリーングラスの引退レース有馬記念を、テン乗りで制した内容は実に印象的だ。
距離ロスを最小限にするため最初の正面では内ラチ沿いの6番手を走っていたが、向正面では2番手に上がり、3角手前では早くも先頭。直線でメジロファントムに詰められたがハナ差粘りこんだ。菊花賞でテンポイントを破り、春の天皇賞も制しているステイヤーだけに、おそらく大崎は早めの競馬でもスタミナが持つと思っていたのだろう。
2年後の皐月賞を勝ったカツトップエースもテン乗りでの制覇だった。17頭立て16番人気。インタビューでは「1番枠だったので捨て身で逃げた」と語った大崎だが、レース後直後の陣営の祝福の中、「いやあ、勝つなんて思わなかった。びっくりしたよ」と笑顔で語っていた。続くダービーも5番人気で制したが、サニーブライアンの二冠(97年)を目にしたオールドファンの中に、カツトップエースを思い出した人もいただろう。