競馬PRESSBACK NUMBER
〈奇跡の復活劇〉3度の骨折を乗り越えたトウカイテイオーが「93年の有馬記念」でビワハヤヒデを抜き去った瞬間
posted2021/09/05 11:01
text by
齋藤翔人Tobito Saito
photograph by
BUNGEISHUNJU
デビューから無敗で皐月賞・ダービーの二冠を制覇した名馬・トウカイテイオー。皇帝シンボリルドルフの血を引く天才は、突然見舞われた怪我に泣いた。菊花賞への出走断念、初の敗北、初の掲示板外、そして92年有馬記念11着惨敗。度重なる怪我を乗り越え出走したのが、93年有馬記念だった。前走の惨敗からひとつもレースを挟めず、約1年ぶりのぶっつけ本番。ファンは、ナリタブライアンの兄・ビワハヤヒデを1番人気に推していた──。
競馬を愛する執筆者たちが、90年代前半の名馬&名レースを記した『競馬 伝説の名勝負 1990-1994 90年代前半戦』(星海社新書)から一部を抜粋して紹介する。〈トウカイテイオー編/レッツゴーターキン編・イソノルーブル編・オグリキャップ編を読む〉。
◆◆◆
中央競馬の1年の総決算ともいわれる有馬記念は、時に説明がつかないような、奇跡的なレースが繰り広げられることがある。93年の有馬記念も、まさにそんなレースだった。
93年といえば、様々な業界で新たな時代の幕開けとなった年。サッカー界では、日本初のプロリーグとなるJリーグが開幕。角界では、曙が外国人力士として初めて横綱に昇進している。
そんな一年を締めくくる有馬記念で、ようやく、この年の幕開けを迎える1頭のサラブレッドが出走していた。
それが、トウカイテイオーである。
史上まれに見る豪華メンバーが集結した「93年の有馬記念」
前年の秋。トウカイテイオーは、父のシンボリルドルフ以来、日本調教馬として7年ぶりにジャパンカップを制し、3つ目のGⅠタイトルを手にした。しかし、続く有馬記念では、11着に大敗。さらに年明け。宝塚記念を目標に調整中、自身3度目となる骨折が判明してしまう。結局、休養期間は1年にもおよび、ようやくの実戦復帰がこの有馬記念だった。