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「顔が見えないチーム」が100億超えのトップクラブへ…ヴィッセル神戸は“日本のバルセロナ”になれるか?
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byJIJI PRESS
posted2021/08/24 11:01
ここ数年でJリーグ内での存在感を強めるヴィッセル神戸。なぜここまでの急成長が実現できたのか?
1年間オプション付きで年間5500万ユーロ、当時の日本円に換算すると5年で320億円(年67億円)にもなる世界最高額のスポンサー契約料は、その後、1年間の延長オプションを行使して2022年6月まで契約を継続している。三木谷会長は、バルセロナのスポンサーになり、世界的に楽天という企業が注視されるなかで、神戸をバルセロナのような「哲学」と「スタイル」を持ったクラブに変革しようと動き始めた。
それまでの神戸は「スタイル」がなく、顔がもうひとつ見えないチームだった。
良い選手を獲得してくるのだが、監督が交代する度に選手の出入りが激しくなり、選手が定着しない。サッカーのスタイルもころころ変わり、「神戸はこれだ」というものがなかった。関西にあるガンバ大阪やセレッソ大阪と比較すると、どうしても地元のスター選手がいない神戸は人気面でも差をつけられ、地味な印象をぬぐえなかったのだ。
ところが、三木谷会長による“バルサ化計画”で徐々に空気が変わっていった。
イニエスタらの加入で「入場者数が爆発的に増加」
2018年、7月には「バルサ化」の船頭として、最高の戦力であり、教材にもなるイニエスタをFCバルセロナから獲得した。続いてダビド・ビジャ、19年にはセルジ・サンペールも獲得し、スタイル定着に拍車をかけた。下部組織から同じ哲学を持ち、スタイルを理解した選手を育成するには時間がかかる。目指すスタイルが明確な場合、それを浸透、定着を進めていくには、そのスタイルを熟知した経験者をチームに投入し、型を作っていくのがスマートなやり方だ。日本代表クラスの山口蛍、酒井高徳らも加入させることで、「バルサ化計画」を選手全員でサッカーを共有して、実践するチーム作りにも着手した。結果、改革はスピード感を持って進められた。
影響が最初に表れたのが観客数だ。ホームだけではなく、地方のスタジアムにも多くの人が訪れ、入場者数が爆発的に伸びる。18年の入場料収入は、8億4000万円だったが19年は12億6000万円と4億円以上の増収となった。ピッチ内では狭い局面でイニエスタが絡む攻撃に「らしさ」が見えるようになり、ボールの保持率も上がった。
だが、結果には結びつかなかった。