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《波乱の地方大会》「親子でやってるから負けたんだ」“絶対王者”山梨学院5連覇できず…バッシングされた監督の告白
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2021/08/25 17:03
山梨大会5連覇を逃した山梨学院。新チームでの練習が始まっている
「連続で甲子園に行っていたからでしょうね。夏の4連覇もそうですし、一昨年は春夏、大会がなかった去年も甲子園の交流試合に出させてもらいましたから。勝ち続けていたことで考えに甘さが出てしまったというか」
昨年秋の県大会。山梨学院は準々決勝で公立の甲府城西に3-5で敗れた。「関東大会に出れば」という吉田の目論見は皮算用に終わり、センバツ出場権をあっさり失った。
さらにこの敗戦後、思いもよらぬ余波が吉田を襲った。
「親子でやってるから負けたんだ」
そんな批判の声が、頻繁に吉田の耳に入るようになってきた。
確かに、山梨学院野球部の部長は、昨年1月から吉田の長男・健人が務めているが、そもそも、山梨学院大在学中の15年の冬から学生コーチとしてチームを指導している。健人が加わった最初の夏から連覇がスタートしたことを考えれば、その批判自体がお門違いと言えるが、彼もまた辛い思いをした。
「正直、メンタルはきつかったですけどね。でも、一番しんどいのは父ですし、自分はできることをしっかりやろうと考えていました」
「親子でしょ。本音で言い合える」
健人は「今はここが弱い」と判断し、監督と意見を共有すれば率先して動くタイプの人間だ。父が清峰の監督時代に部長を務めた時期があり、今年は長崎・大崎の監督としてセンバツ出場を果たした清水央彦のもとへ、ピッチャー育成を学びにも行っている。
そういう姿勢に、父は息子にいち指導者として信頼を置く。なにより、健人を自分の右腕とする根拠もしっかりと存在する。
一番のメリットは風通しのよさだ。
自身も清峰で清水と二人三脚でチームを強豪へと成熟させたように、監督と部長の意思疎通こそが、チームの強化において何よりも重要なのだと、経験を通じ身に染みている。
「うちは親子でしょ。本音で言い合えるし、メリットしかないんですよ」
さらに吉田を後押ししたのが、横浜の野球部元部長で、現在は山梨学院の臨時コーチを依頼している小倉清一郎のひと言だった。
「監督の息子が一番、野球を理解してる」
横浜を5度の全国制覇へと導き、甲子園通算51勝の名将・渡辺元智元監督を支え、松坂大輔や涌井秀章ら好投手をプロへ送り出した名参謀。「辛口」で知られる小倉からのお墨付きもあって、吉田は覚悟を決めたという。
「親子の監督と部長で日本一になったチームはあるのかな?」
とはいえ、「親子だから」という急に湧出した冷ややかな声は、吉田を苦しめた。
秋の敗戦から「絶対に盛り返す」と臨んだ春季県大会。山梨学院は準々決勝で日本航空に0-11の大敗を喫した。