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なぜ“埼玉の絶対王者”花咲徳栄は県5回戦で負けたのか?「ヤバい、ヤバい」「生徒の心が見えなかったなぁ」監督と選手の証言
posted2021/08/25 17:02
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
Sankei Shimbun
晴れ間あり、嵐あり。
花咲徳栄からすれば山村学園との試合は、そんな気まぐれな真夏の空模様を表していた。
7月22日、高校野球埼玉大会5回戦。4点差を追いついた9回、ベンチのムードは明るかった。キャッチャーの味谷大誠(3年)は、自身はもとよりチームのボルテージが高まっていく様子を肌で感じ取っていた。
「負けていても誰ひとり諦めていませんでしたし、先頭から連続出塁した時はもう、『絶対に行けるぞ!』って確信はありました」
9回裏も、2死二塁と一打サヨナラのピンチを作られても、味谷は「ここで流れを断ち切れば、延長で勝ち越せる」と信じて疑わなかった。何より冷静だった。それまでは外角低めを軸に配球を組み立てていたが、この場面で迎えた左打者がフォークボールのタイミングが合っていないと読むや、それを続ける。
カウント1ボール2ストライク。
2年生右腕の金子翔柾が投じた、内角低めのフォークが打者のひざ元に鋭く落ちる。相手のハーフスイングは、バットが回っているように思えた。ショートバウンド気味のボールを体全体で捕球したキャッチャーの味谷は、振り逃げを阻止するべく一塁へ送球した。
主審が左打者のスイング軌道を見やすい三塁塁審にジャッジを委ね、ボールの判定が下されたのは、その直後だった。
味谷は「焦りはなかった」と言う。事実、すぐマウンドへ駆け寄り、2年生投手を鼓舞するその表情は、笑顔だった。
「追い込んでんのは変わんないんだから、深く考えるな。バッターに集中しよう。しっかり抑えて、次の攻撃に繋げよう」
カウント2-2。味谷に迷いはなかった。同じボール――内角低めへのフォークを金子に要求した。三振に打ち取る自信は、あった。
まるで1球前を再現しているかのような、完璧な軌道のボールに相手がまた反応する。
しかしボールは、キャッチャーミットではなく、ライト線に落ちていた。
「花咲、もういいんじゃない?」って雰囲気
味谷がおぼろげな記憶を手繰り寄せる。
「あぁ……って。打球が上がった瞬間に、頭が真っ白になってしまったというか」
選手全員がその場でうなだれた。
残酷な幕切れ。花咲徳栄が5回戦で散った。