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サマートレードとジャイアンツの堅調。カブスの主力大放出が影響をもたらすナ・リーグ西地区優勝争いの行方
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2021/08/14 06:00
カブスの7シーズンで残した最高打率は.295のクリス・ブライアント。ジャイアンツ移籍後は10試合で.308と好調だ
内訳を見ても、苦手チームが少ない。負け越している相手は、対戦数の少ないカーディナルス(2勝4敗)、パイレーツ(3勝4敗)、マリナーズ(1勝2敗)の3球団だけで、同地区のライヴァルであるドジャースとは8勝8敗、パドレスとも5勝4敗と隙を見せない。一方で、ダイヤモンドバックスには13勝2敗、レッズには6勝1敗と、「お客さん」を作っているのも抜け目がない。
それにしても、ジャイアンツのこの戦いぶりを、開幕前にだれが予想しただろうか。
投打ともに、ずば抜けたスターはいない。チームの柱バスター・ポージー捕手は、昨年全休した反動が心配だったし、好調の投手陣を支えるケヴィン・ガウスマンやアントニー・デスクラファーニなども、オリオールズやレッズで投げていたころの戦績を知る者なら、今年は出来すぎと思うにちがいない。
にもかかわらず、ジャイアンツは負けない。開幕当初、この地区はドジャースとパドレスの一騎打ちが予想されていた。ここで勝てればワールドシリーズに勝ったも同然、という極端な意見さえ聞かれた。もちろん両チームとも、悪い成績ではない。ドジャースが68勝、パドレスが66勝という数字を見れば、よしんば地区優勝を逃したとしても、ポストシーズンへの進出はまず堅いと見るべきだろう。
ただ、ドジャースとしてもパドレスとしても、シーズン終盤まで息を切らして戦い、そのあげくワンゲーム・プレーオフ(負ければ今年はそこで終わりだ)からポストシーズンをスタートさせなければならないという事態は、なんとしても避けたいはずだ。
3強によるトレード合戦
そのため、ドジャースはマックス・シャーザー投手とトレイ・ターナー内野手をナショナルズから獲得した。パドレスは、アダム・フレイジャー内野手をパイレーツから、ダニエル・ハドソン投手をナショナルズから獲った。ドジャースとしては、トレヴァー・バウアー投手の裁判沙汰が痛いし、パドレスにしても主砲フェルナンド・タティースJr.内野手の負傷離脱(肩の故障再発を防ぐため、外野に転出させるかもしれない)に肝を冷やしたのだろう。
そんなライヴァルの動きを見透かしたかのように、ジャイアンツはブライアントを獲得した。ブライアントは、一塁でも三塁でも外野でも守れる。16年にワールドシリーズを制したときは、カブスの主砲として39本塁打、102打点をマークし、MVPに輝いている。年齢もまだ29歳で、老け込むには早すぎる。
彼が一枚加わったことで、ジャイアンツの打線は一気に重量感を増した。今季のジャイアンツ打線は、チーム本塁打数(170本)が30球団最多を記録している(被本塁打数は115本と30球団中4番目に少ない)。
先にも触れたが、スター不在、大砲不在の状況でこの数字を残すのは、かなり異色だ。スタッツを見ると、8人の中距離打者が、それぞれ12~18本の本塁打を記録している。そこにブライアント(カブス時代から数えると今季19本)が加わると、太いくさびが1本、ラインナップに打ち込まれたような感じを受ける。
残り1カ月半のシーズンを、ジャイアンツはどう戦っていくのだろうか。ドジャースもパドレスも逆転優勝を虎視眈々と狙っているから、この先の展開は予断を許さない。ただ少なくとも、今季のレギュラーシーズンを面白くした殊勲者の筆頭がジャイアンツであることは、だれしも否みがたいだろう。