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消えた「バルサのメッシ」という当たり前…放漫な経営が招いた悲劇で「メッシ」と「メッシのいないバルサ」はどこへ向かう?
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byGetty Images
posted2021/08/09 11:01
再契約が濃厚とみられるなか、バルサの退団が決まったメッシ。21年間の蜜月に突如終止符が打たれた
ここ数年のバルサは、あまりにもメッシに寄りかかり過ぎていた。これまで公式戦778試合で672ものゴールと、4度のチャンピオンズリーグ(CL)制覇を含む35ものタイトルをもたらしてくれた絶対的な柱を失って、はたして彼らはどう変わるのか。
ペドリ、フレンキー・デヨング、アンス・ファティ。新時代を築き上げてくれそうなスター候補生は少なからずいる。メッシという王様との別れは、あるいはカンテラの若手を中心に、再びボールプレーという原点を見つめ直す、良い機会になるのかもしれない。
純粋にボールと戯れるメッシをもう一度見たい
一方のメッシも、近年は楽しい出来事よりも、辛い出来事のほうが多かっただろう。
とりわけCLでは辛酸を舐め続けてきた。2017-18シーズンはローマに、2018-19シーズンはリバプールに2年連続で歴史的な大逆転負けを喫し、2019-20シーズンは準々決勝でバイエルンに2-8で惨敗した。
カルレス・プジョル、シャビ、アンドレス・イニエスタといった重鎮たちが相次いでチームを去り、キャプテンとなった彼が背負うものは、以前とは比べ物にならないほど重くなっていた。その一方で、フロントは脈略のない補強と監督人事を繰り返し、昨夏には心の友ルイス・スアレスが、理不尽なやり方でクラブを追われている。
それでもメッシはチームの誰よりもゴールを奪い、誰よりもアシストを送り続けたが、その眉間の皺は日に日に深くなり、顔の半分を覆わんばかりの濃い髭は、まるで滲み出る苦悩を隠そうとしているかのようだった。
心からの笑顔を浮かべているメッシを見たのは、先のコパ・アメリカが本当に久しぶりだったような気がする。アルゼンチン代表として、ついにタイトルを獲得したメッシが、髭をさっぱりと剃り落としたメッシが、トロフィーを抱えて子どものようにはしゃいでいた。
あんな無邪気な笑顔を、またクラブチームでも見たいのだ。使命感や責任感、政治的な駆け引きから解放され、純粋にボールと戯れるメッシを、キャリアの晩年──それが訪れる気配は微塵もないけれど──にもう一度見たいのだ。
バルサでそれが叶わないのなら、パリ・サンジェルマンでも、マンチェスター・シティでも、あるいはアメリカのクラブでも、どこだって構わない。
メッシが、メッシらしくいられる場所なら、どこだって。
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