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歴史的なタブーを犯してエバートンの監督に…ベニテスは複雑な感情を抱くエバトニアンを味方につけられるか
text by
粕谷秀樹Hideki Kasuya
photograph byGetty Images
posted2021/08/05 17:01
エバートンの監督に就任したベニテス。期待に応える結果を示し、エバトニアンの心を掴めるか
バレンシアをUEFAカップ優勝に導き、リバプールを率いていた2004-05シーズンは、フットボールの歴史に残る“イスタンブールの奇跡”をやってのけた。その後、R・マドリーやチェルシーの監督を務めるなど、確かにキャリアは申し分ない。
しかし、リバプールの監督を6年間も務めている。同クラブとエバートンはローカルライバルだ。家族、親戚間でご贔屓クラブが変わるため、観客席は友好ムードに包まれるものの、ピッチ上は熱い。
アシュリー・コールは“キャッシュリー”コールと批判
リバプールとエバートンの監督を務めたのはウィリアム・エドワード・バークレイただひとりであり、しかも130年以上前の話だ。フットボールが置かれた環境は、現在とは比べものにならないほどノンビリしていた。
トッテナムの屈強なるセンターバックとして一世を風靡したソル・キャンベルは、フリートランスファーでノースロンドンのライバルであるアーセナルに移籍した。トッテナム・サポーターの神経を逆撫でしたキャンベルは、ボディガードの雇用を余儀なくされている。
より高額な報酬を求めてアーセナルからチェルシーに移籍したアシュリー・コールは、“キャッシュリー”コールと批判された。
また、ルイス・フィーゴがバルセロナからR・マドリーに新天地を求めた際は豚の頭がピッチに投げ込まれるほど、バルセロニスタの憎悪に火がついている。
ローカルライバル間の移籍は、ベニテスのようにリバプール退任から11年が過ぎていても、できるものなら慎むべきだった。しかも彼はその昔、「エバートンはスモールクラブ」と語っている。
エバトニアンは水に流してくれるだろうか。
攻撃陣は一見豪華だが、質量ともに不足
「攻撃は選手個人のセンスにほぼ任せていたけれど、守りはデータに基づいて繰り返し練習した。練習時間の7割は、守りの確認だった」
ベニテスと6年にわたって寝食をともにした、ジェイミー・キャラガーの証言である。要するに、ベニテスは後ろからチームを創る。したがってエバートンでも、GKとDFの再構築に着手する公算が大きい。
2020-21シーズンの主要メンバーは、GKにジョーダン・ピックフォード、DFはメイソン・ホルゲート、シーマス・コールマン、ジェリー・ミナ、マイケル・キーン、ルカ・ディニュ、ベン・ゴッドフリーだった。
世界水準の左サイドバックといわれるディニュ、ビルドアップできるセンターバックとして成長著しいゴッドフリーは、ベニテスの信頼を勝ち取るだろう。ホルゲートは右サイドバックとCBをこなし、コールマンの経験値は貴重な財産だ。