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橋本大輝は“高校3年生で体操シニア優勝”に輝いた超特大の才能… メンタル、戦略など“5つの凄さ”とは〈個人総合金〉
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byYUTAKA/AFLO SPORTS
posted2021/07/29 11:03
2019年10月の世界選手権では日本代表チームの最年少として初出場。団体ではあん馬、跳馬、鉄棒、ゆかの4種目に出場し銅メダルに貢献した。
冷静さを保てるメンタル。
それでもどうにか35点の演技構成をつくりあげて大会に臨んだが、試合が始まるといきなり2種目めのあん馬でつまずいてしまった。目に見える減点箇所があったわけではないが、予定していたE難度の「アイヒホルン」を入れることができず、このままではDスコアが0.1点足りなくなるというピンチに見舞われたのだ。
「あん馬ではDスコア6.5点の構成をやりたかったのですが、(1種目めの)ゆかが6番手だったので、呼吸がすごくきつかったんです」
この後、どの種目で0.1点上げるか。コーチ陣とも相談しながら、3種目めのつり輪で力技の「中水平」を入れるか、5種目めの平行棒で「棒下ひねり」を入れるかという選択肢もある中、橋本は得意とする鉄棒にすべてを懸けることに決めた。
ここで光ったのが、追い詰められても冷静さを保てるメンタルだ。普通なら早めに手を打って35点突破の目処を立てておきたくなるものだろう。しかし、橋本は5種目めまで淡々と演技をこなし、最後の鉄棒に向かい、そしてプランを遂行した。
その2:臨機応変に技を出し入れできる。
鉄棒の演技を行なう前、市立船橋の神田眞司監督や大竹秀一コーチからは、「無理をして0.1点上げなくてもいいよ」という助言もあったという。しかし、橋本は攻めの構成に挑んだ。離れ技の「伸身トカチェフ」と「開脚トカチェフ」を連続で行なうことでボーナス点の0.1をもらうという構成だ。
トカチェフを連続で行なうには、その前までをスムーズにつなげていることが不可欠だが、前の離れ技である「コールマン」のフィーリングを演技中に確認して連続トカチェフに持って行ったところが素晴らしかった。
水鳥寿思男子強化本部長は「つり輪や平行棒でも難度を上げられる可能性がある中で、確実に点を取れるところを選択したのがすごいことだ」と評価をさらに高めていた。
橋本は胸を張ってこう言う。
「その場に応じて、相手選手の状況なども読み取って自分でどう戦っていくか。大会ではそういうことも必要になる。今回の試合で戦術の部分も学ぶことができたので、それも大きな収穫だと思います」