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街中のパブが「ラストオーダー23時15分」決勝モードの営業に… イングランドEURO制覇で「自嘲」の時代は終わるか《現地発》
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2021/07/11 11:03
デンマークを下し決勝進出を果たしたイングランド。イタリアを撃破し、歴史を塗り替えられるか
5年前に出回ったシニカルなジョーク
イングランドにとって、サッカーは国技のようなもの。だが実際には、半世紀以上にもわたって「母国」にとっての誇りというよりも、自らを笑えるユーモアを持つ国民の「自嘲」の源であり続けた。
ピッチ外では国民投票でまさかのEU脱退。ピッチ上ではまさかのアイスランドに敗戦で敗退が決まり、「1週間で2度もEUROに別れを告げられるのはイングランドだけ」というジョークが出回ったのは5年前。前回のEURO2016でのことだ。
そんなイングランドが、遂に1966年W杯以来となる決勝進出を果たした。
これはもう恥も外聞もなく思い切り余韻に浸って、母国史上2度目の国際大会優勝を夢見て盛り上がるしかない。
チームは、7月11日に行われるイタリアとの決勝へ向けて速やかに気持ちを切り替えてもらわなければならない。しかしファンは、少なくとも再びウェンブリーで試合開始の笛が鳴るまでは、強まり続けることはあっても決して萎えることなどない決勝進出の喜びを爆発させる権利がある。
報道で、2階建てバスの屋根に登ってセント・ジョージ旗を掲げる若者の姿を見れば、「まるで優勝したかのような大騒ぎ」と思う一方、「それで結構。そうでなきゃ」と思う自分もいた。
人口の過半数が母国代表の決勝進出を見たことがない
準決勝翌日のメディアでは、全国各地で「人生で最高の一夜」を振り返るイングランド庶民の声が紹介された。
大袈裟な反応ではない。今春の統計によれば、英国で最も人口が多いのは55歳。筆者と同じ1966年生まれである。イングランドで生を受けていたとしても、0歳ではW杯優勝の記憶などあり得ない人々だ。中央年齢は約41歳。つまり、人口の過半数が母国代表の決勝進出など見たことがないのだ。
イングランドのファンとして、それこそ「生まれて初めて」の喜びを体験したのだから、今回ばかりは「生まれながら」とも言えるシニカルな物の見方を捨てるべきだ。持ち前のポジティブになり切れない一面を、意識して押さえつける必要がある。
ついつい口をつくネガティブな見解はデンマーク戦までで十分だろう。
サウスゲイトは、足首の怪我が癒えていなかったハリー・マグワイアを大会メンバーに残した開幕前から、厳し過ぎる疑いの目を向けられた。
クロアチアとのグループ初戦(1-0)では、マンチェスター・シティでベンチが増えるシーズンを過ごしたラヒーム・スターリングを先発させた決断を疑われた。
続くスコットランド戦(0-0)後は16強入りの資格がないと糾弾され、さらにチェコ戦(1-0)の後には開幕3試合を無得点で終えたケインのスタメン落ちを求める声もあがった。