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街中のパブが「ラストオーダー23時15分」決勝モードの営業に… イングランドEURO制覇で「自嘲」の時代は終わるか《現地発》
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2021/07/11 11:03
デンマークを下し決勝進出を果たしたイングランド。イタリアを撃破し、歴史を塗り替えられるか
ドイツ戦の前には19歳のブカヨ・サカの先発がビッグゲームでの危険な賭けと見られ、ウクライナ相手の順当勝ち直後には「準々決勝としてはミスマッチ」と見る向きもあった。
デンマーク戦にしても歴史的勝利の隅を突ける材料はある。マン・オブ・ザ・マッチは、2度の1対1を含むセーブでデンマークの望みを繋ぎ続けたカスパー・シュマイケルが妥当だ。ミケル・ダムスゴールの先制FKは見事だった。これに対してイングランドは相手のオウンゴールで追いついた。
冒頭で「逆転のPKを決めた」と書けなかったように、珍しく置きにいったケインのひと蹴りはシュマイケルに一度は止められた。セーブを確信した守護神が外に弾き出すのではなくキャッチしにいったから、リバウンドがケインの前に転がってきたとも考えられる。
とはいえ、歴史的勝利にはポジティブな解釈こそが相応しい。
女性アイドルグループも“サウスゲイト熱”を煽る
チームパフォーマンスとしては、今大会初失点で迎えた精神面のテストは、逆転勝利で合格したと理解したい。それも、クリスティアン・エリクセンが倒れた初戦から不屈の精神を体現してきたデンマークとの一戦である。
失点から9分で試合を振り出しに戻した同点ゴールは、動揺せずに即座に反撃に転じたメンタルの賜物。延長戦前半に生まれた逆転ゴールは持ち前のユーモアで、ケインが相手GKとの「絶妙なワンツーから決めた」と表現すればいい。
個人レベルのパフォーマンスでも、チェコ戦から復帰したマグワイアはスピード不足を突こうとしたデンマークの標的にされはしたが、高い集中力で守備の要を再認識させた。大会3得点のスターリングが間接的に2得点に絡めば、決勝トーナメントに入り4得点目を記録したケインは、主要国際大会におけるイングランド歴代得点王ガリー・リネカーの10得点に追いついた。
再び先発を果たして同点ゴールに繋がる折り返しを放ったサカを含め、采配が奏功したサウスゲイトが、「自分に任せておけ」という説得力を改めて強めた一戦だった。
そのサウスゲイトは、6万人の観衆の大半を占めたイングランド・サポーターから、「出会った時からあなただけ。今でもその気にさせられる」というチャントで讃えられた。これはロシアでの3年前に生まれた替え歌だが、準決勝前にはオリジナルをヒットさせた女性アイドルグループがシングルをリリースして、“サウスゲイト熱”を煽っている。
それでいい。スタメンの人選に見られる強い信頼や、勝利後のハグや会見を通じた控え選手への思いやりといった側面でも、試合のたびに感心させられるサウスゲイトの存在は、2018年W杯準決勝敗退の無念、そして現役時代にPKを止められたEURO1996準決勝敗退の悪夢を塗り替え、この夏の偉業達成で国民に一生ものの記憶を植え付けたとさえ思える。