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街中のパブが「ラストオーダー23時15分」決勝モードの営業に… イングランドEURO制覇で「自嘲」の時代は終わるか《現地発》
posted2021/07/11 11:03
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph by
Getty Images
「決勝進出」
この4文字をイングランド戦の結果として記す日が、本当に訪れるとは――。
2021年7月7日は、筆者にとっては第2の祖国と言えるこの国の代表チームが、EURO2020準決勝で延長戦の末にデンマークを退け(2-1)、55年ぶりに主要国際大会で決勝に駒を進めた歴史的な日となった。
その舞台は、西ロンドンの自宅から遠目にアーチが見える市内北西部のウェンブリー・スタジアム。ハリー・ケインがPKの場面で逆転ゴールを決めた瞬間には、近所でも歓喜の叫び声が聞かれた。
勝利後、テレビ画面に映る代表選手たちが「嬉しいときの気分がこんなに最高だなんて」というサビが印象的な『スウィート・キャロライン』をスタンドのファンと合唱していた場面では、裏の家からも歌声が聞こえてきた。
それでも、イングランドの決勝進出はどこか現実離れした出来事に感じられた。
イングランドにとって準決勝は国際大会の鬼門
気付けば、55年の人生の半分近くをイングランドで過ごしてきたことになる。今大会の開幕前、ある専門誌の優勝予想アンケートに答えた際には「心に訊けばイングランド」と書いた。
しかし、その後には「頭で考えればフランス」と続けた。ガレス・サウスゲイト率いるチームは、2018年のワールドカップでも予想以上のベスト4入りを達成した。くじ運にも恵まれた今回も準決勝まではいけるような気がした。
だが、2022年W杯での優勝に向けて復興途上のイングランドは、完成度と経験値の面で今夏もファイナルには届かないような気がしていた。
開幕後、グループ首位で勝ち上がったラウンド16で「格上」の宿敵ドイツに引導を渡し(2-0)、準々決勝ではウクライナに大勝(4-0)したが、中盤以降の堅さと前線の巧さが過小評価されていた感のあるデンマークに、「決勝進出」よりもはるかに馴染みのある「敗退」の2文字を突きつけられても不思議ではないと感じた。
イングランドにとって準決勝は、古くは1968年の欧州選手権、直近では3年前のW杯を含め計4回、過去の国際大会で鬼門になったという意識もあった。
さらに言えば、ここでコケなければ「イングランドらしくない」とでもいうような……強気になり切れない感覚。ベスト4の壁まで破ったあと、イングランド人で元代表DFでもある解説のアシュリー・コールが、声を詰まらせながら「まだ実感がわかない」と言っていた気持ちがわかるような気がした。