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“20代で年収約2000万円”エリート商社マンの肩書を捨て、フィットネスで日本一になった男「なぜ“筋肉の道”を選んだか」 

text by

山崎ダイ

山崎ダイDai Yamazaki

PROFILE

photograph byTomohisa Watanabe

posted2021/07/05 17:01

“20代で年収約2000万円”エリート商社マンの肩書を捨て、フィットネスで日本一になった男「なぜ“筋肉の道”を選んだか」<Number Web> photograph by Tomohisa Watanabe

「クロスフィット」で日本一になった板谷友弘(36歳)。元商社マンの肩書を持つ

 大きな世界で、多くの人を幸せにしたいと思って総合商社を選んだはずなのに、ふと気づくと、毎日話すのは決まった上司と、変わらない取引先だけだった。

「同じ上司といつも飲みに行って、同じ話をして終わっちゃう。物質的な豊かさはもちろんあったけれど、『将来、自分もこういう風になるんだろうなぁ』というのが想像できてしまった。それはそれで面白くなくて……」

 翻って、街の小さなクロスフィットジムに行けば、そこには多種多様な人がいた。

 医者がいれば、スポーツ選手もいる。もちろん普通のビジネスマンから、高齢のお爺さんまで、国籍も年齢も異なる多くの人たちとコミュニケーションできた。それは、普通に異国の地で暮らしていたら、きっと出会えないはずの人たちばかりだった。

 皮肉なことに世界を相手にビジネスをしているはずの普段の自分の世界はとても狭く、目の前の小さな箱に広がる世界は、それとは段違いで広かった。

「この人たち、運動したら幸せになるのになぁ」

 そんな経験を経て、帰国後に板谷が感じたのは、とてもシンプルな現実だった。

「帰国して、働いている同僚とかの姿を見ていたら、自分の経験と照らし合わせた時に『この人たち、もっと運動したら幸せになるのになぁ。絶対、もっといい人生が送れるのにな』と思ったんです。そういうことを考えるようになって、競技としてのクロスフィットも楽しかったんですけど、それに加えてビジネスとしてどうやってクロスフィットを広めるかも考えるようになりました」

 そうして板谷は7年勤めた財閥系商社を辞め、大手広告代理店系の新規事業開発組織を経て、独立して自身のジムを立ち上げることを決断した。

 目的はもちろん「クロスフィットを広めること」だ。

「独立を選んだのは財閥商社から転職した先で、新規事業開発のビジネスをやったのが大きかったです。サラリーマンをこのまま続けていても、自分の思い描いている姿にはなれないと思った。転職先は独立を推奨している会社だったから、そういう意味でも踏ん切りがつきやすかったのはありますね。自分のジムに来て、『日常生活が変わった』と言ってもらえればうれしいし、ここでいろんな人がつながって、普段出会わない人たちに出会えて、それで生き方が変わることもある。そういう瞬間を見られるのは、独立したからこそ感じられるメリットだと思います。職場と家以外の『3rdプレイス』が必要だとよく言うけど、そういう場所がないと毎日、話す会話も話す人も一緒になってしまうでしょう。新しい場所がつくれたら、たくさんの人が喜ぶだろうなと思って」

「マジ?やめとけよ…」「なんで商社やめたの?」

 もちろん恵まれた環境を捨てることには怖さもあった。

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板谷友弘

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