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高校ラグビー部の監督はなぜ「部活をクラブに変えた」のか? 生徒を苦しめる“勝利至上主義、補欠文化”からの脱却で目指すもの
text by
島沢優子Yuko Shimazawa
photograph by湘南アルタイルズ提供
posted2021/06/23 11:01
湘南アルタイルズのメンバーたち。平等な機会のもと、自分がどうラグビーと向き合いたいのかを考え、主体性を持って活動している
「湘南アルタイルズ」の基盤になった松山監督の経験
高校は福岡の公立の星・東筑高校で、大学は名門・早稲田出身の松山監督は、クラブチームも経験している。卒業後警視庁に勤務しながら、神奈川タマリバクラブ(東日本トップリーグ)でクラブ日本一に輝いた。
「当時の僕は早稲田以外の大学でプレーした人たちを下に見る、嫌なやつだった。でも、仕事で疲れた体を引きずって集まる仲間と一緒にプレーするうちに、チームメイトが大好きになった。仲間のためにプレーしようと初めて思ったんです。感じたことのない価値観だった」
早稲田時代は一軍に入りたい、早稲田のプライドのために、という思いしかなかった。
「青臭いのですが、仲間への愛が力になることを知った」
スポーツの語源はラテン語の「deportare(デポルターレ)」で、遊ぶ、愉しむなどの意味を持つ。監督やコーチにやらされるものではなく自らプレーする遊びであることが前提だ。そんなスポーツの本質にタマリバで出会った経験が「湘南アルタイルズ」の基盤になった。
「子どもを育てよう。ラグビーの楽しさを伝えよう」
一方、仕事では葛藤した。困っている人を救いたいと警察官になったものの、少年を逮捕したり、補導したり。「助けるのではなく、悪をつかまえる」仕事に終始した。補導して交番に連れてきて対面で話をすると、いい子が多かった。愛情に飢え、居場所のない子も多かった。体格に優れた子もいて、思わず「ラグビーやれよ」と声をかけそうになったこともあった。その後、「子どもを育てよう。ラグビーの楽しさを伝えよう」と方向転換し教員になった。
主体的に楽しさを味わうクラブチーム、勝利を追求する部活や大学ラグビー。その両方を知る松山監督だからこそ部活のクラブ化にたどり着いたのだろう。
「脱・部活」の新スタイルとして、今後も湘南アルタイルズから目が離せない。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。