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高校ラグビー部の監督はなぜ「部活をクラブに変えた」のか? 生徒を苦しめる“勝利至上主義、補欠文化”からの脱却で目指すもの
text by
島沢優子Yuko Shimazawa
photograph by湘南アルタイルズ提供
posted2021/06/23 11:01
湘南アルタイルズのメンバーたち。平等な機会のもと、自分がどうラグビーと向き合いたいのかを考え、主体性を持って活動している
W杯の成功だけでは競技人口の減少は阻止できなかった
大学ラグビーにある「アフターマッチファンクション」も行う。今は、試合終了後のストレッチが終わったら両チームが集まって雑談する。互いに相手チームのマン・オブ・ザ・マッチを決めたり、将棋の感想戦のようなやり取りもあるが、ラグビー以外の話がメインだ。打ち解けた生徒たちが一発芸大会などを始めることもある。コロナ禍が収束すれば、紙パックのジュースを注ぎ合って乾杯したいという。
想像しただけで楽しそうではないか。
ところが、松山監督によると、小学生ラグビーではせっかくのファンクションで大人がプレーを講評するところもあったという。子どもは、ただただ神妙に大人の話を聞いていた。
「そういうのはファンクションではありません。子どもたちがラグビーを選ばないのは大人、つまり指導者側の問題が大きいと思う。高校の部員数なども激減している。ワールドカップで日本が勝てば競技人口が増えるわけではありません」(松山監督)
高校ラグビーの競技人口は、全国高等学校体育連盟調べの加盟・登録状況【全日制+定通制】によると、2020年度は加盟校が925校で、登録された部員数は1万9695人。2019年度に比べ、加盟校が44校、選手登録数は316名減っている。2010年度は1132校、2万5379人だから、10年スパンで207校、5684人も減少している。今季で現役引退した五郎丸歩氏が高校時代にプレーした佐賀工業のある佐賀県は、昨年度2校だ。
卓球やハンドボールなど10年前より部員が増加している競技もあるうえ、少子化傾向も近年は横ばいだ。そのあたりを鑑みると、松山監督の言うように、2019年の自国開催のW杯の成功だけでは減少傾向は阻止できなかったことになる。
「エンジョイできる部活」に部員たちは来なくなった
平塚工科高校に着任しラグビー部監督になってから4年。この形にたどり着くまで、試行錯誤の連続だった。着任当初のラグビー部員は6人。約1年後には部員は48人に増加した。厳しくしてやめないようにとの気遣いから「エンジョイできる部活」を標榜し、「来たいときに来ればいいよ」と部員に声をかけた。
ところが、部員たちは来なくなった。本気でやらないラグビーよりも「スマホゲームのほうが楽しかったんだと思う」(松山監督)。2年目には48人が30人ちょっとまで減った。徐々に練習に参加しない部員が増え、ラグビーを頑張りたい子がどんどん減っていった。
「単なるレクリエーションでは継続しないと理解しました。一定の期日と時間の長さを逆算して頑張れる目標設定が必要でした」
そこで、ライバル校に対する「打倒・平塚学園」を目標に掲げた。